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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
ウシの全頭検査は必要か
 今月の「健康情報」でお伝えした「BSE対策に関するリスクコミュニケーション」の後半は意見交換会であったが、その大半は「全頭検査は必要かどうか?」に費やされた。当日は「全頭検査体制死守」の立場の消費者団体等の代表者と「全頭検査見直し」の立場をとる食肉・外食・流通関係者が同席したため、活発な意見交換が行なわれた。なぜ「全頭検査」が議論の的になるかということを念のためにご説明すると、「全頭検査で合格した牛肉しか食べてはいけない」という条件下では(アメリカでは全頭検査が行なわれる可能性はないので)アメリカの牛肉は食べられないことになるからである。
●妥協の余地がない対立は政府の思うつぼ
 両者の意見の相違は鮮明である。代表的な意見をいくつかご紹介する。
・全頭検査死守派:「何歳(月齢)未満のウシならば異常プリオンタンパク質が生成されていないのか、という科学的根拠がはっきりとしていない」「特定危険部位除去が完全に行なわれる保証はないし、特定危険部位がどことどこであるかはまだ明らかになってはいない」「若齢牛はBSEの危険性が低いので全頭検査から外すというが、トレーサビリティがきちんとしている日本のウシ以外は、ウシの月齢を正確に把握できない」「いま全頭検査を止めると、せっかく回復しつつある消費者の牛肉に対する安心感が崩壊する」「人間の生命よりも経済を優先させることは断じて許せない」等々。
・全頭検査見直し派:「そもそも全頭検査がウシからヒトへの感染を防ぐという科学的根拠がない」「若齢牛のBSE検査は意味がない」「特定危険部位除去と高齢牛のBSE検査を併用すれば、牛肉の安全性は確保できる」「全頭検査は安全のためではなく安心のための検査である。安心はリスクコミュニケーション等によって解決すべき問題である」「科学的根拠の薄い全頭検査によって、食肉業界は壊滅的打撃を被っている。科学的根拠に基づいた施策を早急に実施し、その選択は消費者に委ねるべきではないか」「経済的に裕福ではなく、安い牛肉を食べたいという消費者の声にも耳を傾けるべきだ」等々。
 もちろん全部をご紹介できたわけではないが、いかがだろうか。両者の「言い分」はわかるのだが、一つだけはっきりしていることは「両者の間に妥協の余地がない」こと。お互いに「聞く耳」を持たない。これは、会場にいるとても強く感ずる。
 お互いに譲り合って現実的な妥協点−−たとえば特定危険部位を広げるとか、BSE検査を実施する月齢を下げるとか、あるいは、違反者の罰則を厳しくするとか−−を見いだす努力が必要なのではないだろうか。このままだと「意見交換会を実施したが結論は出なかった。さまざまな意見があることがよくわかった。国民の総意を尊重してリスク管理を実施する」ということになり、結局は政府の思うつぼ(?)になってしまうおそれがある。
 現在、国民の多数は「アメリカ牛肉の輸入解禁には反対」かもしれない。しかし、世論は豹変する。いつ何時「安い牛丼を食べさせろ」という声が大きくならないとも限らない。そうなると、逆に科学的根拠なしに「全頭検査が廃止」されるかもしれない。元も子もなくすことにならないだろうか。
 もし近い将来「全頭検査」が廃止され、アメリカからの牛肉輸入が再開されることになっても、一つだけ実行してほしいことがある。それは「原産地表示」である。この状況で「安全なのだから表示の必要はない」という論理は通用しない。選択権は買う人に残しておいてほしい。アメリカの牛肉が(日本の牛肉も同じだが)本当に安全であるならば、その証明は売り手がすべきである。消費者に説得力を持つ情報を提供する努力が必要だ。(2004/9/1 佐藤達夫)
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