キンメダイは水銀に汚染されてるから食べないほうがいいの? ●定食屋さんからキンメダイが姿を消した ときどき行く定食屋さんの「日替わり定食」で赤い皮の焼き魚が出てきました。焼き魚が大好きな私はニコッとして聞きました。 「これキンメ?」 「ウウン、違うわよ。キンメは食べちゃダメよ、体に悪いから」 「え?」 「テレビでいってたのよ。おなかの子供に悪い影響が出るから妊婦さんはキンメを食べないほうがいいんだって。男の人だってやめたほうがいいわよ。第一、今キンメは手に入らないのよ」 ことの起こりは、6月3日に厚生労働省から発表された「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会の検討結果概要」です。 この中で、多くの魚介類は微量の水銀を含有しているけれども健康に害を及ぼすレベルではないとわざわざ断りながらも、一部の魚介類では胎児に影響を及ぼすおそれがあるほどの高いレベルの水銀を含有している、と報告しています。一部の魚介類というのは、バンドウイルカ、ツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラ及びサメ(筋肉)です。これらの魚は、ゴク限られた地域でしか食されていないと思います。 また、比較的なじみのある魚では、キンメダイとメカジキがあげられていました。この2つについては、妊婦さん(妊娠の可能性のある女性)は週に3回以上は食べないほうがいいということです。自分の経験を元に一般的な議論を展開してはいけませんが、私の周囲には「週に2回以上キンメダイを食べている人」は一人もいません。妊婦さん以外は、キンメダイを食べてもまったく問題がないと理解するほうが正しい情報の受け取り方といえるでしょう。●テレビの情報番組は、正確な報道をしてほしい! これは、「めったに食べる人がいないのだから、公表する必要がない」という意味ではありません。今回のように情報はきちんと開示してほしいと思います。問題は、それを扱うマスコミです。朝から昼間にかけて放映している女性をターゲットにした情報番組のうちのいくつかが取り上げたようです。 あいにく私はそれを見ていないのですが、「キンメダイを食べると健康体ではない子供が生まれる」かのような、相当にセンセーショナルな内容であったと聞きます。少なくとも見た人の中に冒頭のように受け取った人が少なからずいたことは事実です。また、築地市場の関係者に電話で聞くと、テレビ放映の翌日から、大手スーパーからのキンメダイの注文が激減し、市場ではほとんど取引がなくなってしまい、その状態がほぼ2週間続いたそうです。その後取り引きが開始されても、値段は下がったままだそうです。今キンメは食べどきですね。 厚生労働省の報告では、今回あげた種類以外の魚介類、あるいは妊婦以外の人では、水銀汚染は健康に害を与えるほどではないと述べてあるし、魚介類は人の健康に有益であり、この発表が魚介類等の摂食の減少につながらないようにしてほしい、と重ねて書かれています。 テレビ番組がいたずらに危険ばかりをあおることのない様にしてほしいものです。 一方、水銀汚染といえば、やはり水俣病が浮かびます。今回の発表は、一般に忘れ去られていた水俣病を私たちの記憶の中に呼び戻してくれたという点で、意味のある出来事といえるでしょう。水俣病の正しい理解のためにも、マスコミの報道は科学的かつ正確でなければなりません。(2003/7/1 佐藤達夫) バックナンバーはこちら