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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
血液サラサラに惑わされるな!
 今月の【健康情報】にも書きましたが、“血液サラサラ”にもっとも大きな影響を与える要因は、血液中の栄養素ではなく、どうやら、赤血球(の状態)のようです。なぜ、これほどまでに“血液をサラサラにする食べ物”が持ち上げられているのか、考えてみました。
●食べ物が血液をサラサラにするかどうかはまだわかっていない
 “血液さらさら”ということばがテレビ界・出版界・健康食品界そして最近では野菜や魚などを扱う生鮮食品関係者を通じて、日本じゅうに氾濫しています。その主張するところは、要約すると次のようになるでしょう。
−−血液にはサラサラの血液とドロドロの血液がある。それは主として食べ物によって決まってくる。血液をサラサラにする食品を食べれば、動脈硬化を予防することができる。その結果、心臓血管病や脳血管病を抑制し、健康で長生きすることができる。だからこの食材・この健康食品を食べましょう!−−
 実際には、このようにサラッと表現してあるわけではなく、“これさえ食べればあしたからあなたの血液はサラサラ!”と魔法のようなことが書いてあります。本当にそうなのでしょうか。 今月の【健康情報】でご報告したように、血液の粘度に影響を与える要因としては、血液中の栄養素よりも赤血球のほうが大きいことがわかりました。さらには、血液の中身そのものよりも「血流状態」つまり血液が流れる速度のほうが、血液の粘度に大きな影響を与えるようです。
 私たちは「食べ物などの影響で血液がドロドロになって血液の流れが悪くなり、その結果、血管が詰まる」と理解しています。しかし、バイオレオロジーの視点で見ると、真相は逆のようです。血液の流れが停滞することによって赤血球同士がくっついて血液の粘度が増し、その結果、血管が詰まりやすくなるのです。
 解剖学的にも、血栓(血の塊)のできやすい場所というのは、血管の分岐点など「血液の流れが遅くなる場所」であることがわかっています。血栓を作らないためには、血流を停滞させないことが重要になります。長時間同じ姿勢をとり続けることのないように注意しましょう(最近では、大きな手術後の患者やお年寄りなど、ベッドの上で寝たきり状態になるケースで血栓ができやすいことが問題になっています)。
 また、血液中の水分が減少して赤血球同士の距離が近くなると、お互いにくっついて血液の粘度が高くなってしまうようです。血栓予防には水分補給がとても重要なことがわかります。
 食べ物がどの程度血液粘度に関与するのかは、まだわかってはいません。少なくとも、テレビ番組や健康食品のコマーシャルにたびたび登場する「血液のサラサラ度を計測する装置(水門のようなところを血液成分がすんなり通ったり詰まったりするアレ)」のように単純ではないことは間違いないようです。「わかりやすいけれども不確かな」情報に惑わされて、高価な健康食品に頼り切りになったり、特定の食品を偏って食べることのないようにしなくてはなりません。(2004/8/1 佐藤達夫)

●後日談
 2004年9月8日付け朝日新聞によると、「農林水産省傘下の独立行政法人・食品総合研究所は7日、企画調整部の研究チーム長の男性研究員(57)が、自ら主宰する研究会に公費を使ったり、勤務時間中の研究や取材で私的に謝礼金を受け取っていたりした」ことが判明した。この男性研究員というのが、「血液サラサラの先生」として頻繁にテレビに登場しているK氏。K氏は、停職1ヶ月の懲戒処分を受けるやいなや辞職願を提出し、依願退職したという。「不正をする人の研究だからといって、研究内容自体が不正である」とは限らないが、血液サラサラ度を計測する装置に否定的見解を出している学会の批判が信憑性を増すことは間違いがないだろう。
 サプリメント企業がK氏の研究成果を頼りにPR活動を進めるのは仕方ないとしても、マスコミはもう少し冷静に(そのためには科学情報をていねいに収集して)報道すべきだといえるのではなかろうか。(2004/9/10 佐藤)