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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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「サプリメントの勧め」にもなりかねない新しい食事摂取基準
●増えたものあり減ったものあり「栄養イロイロ」? 今月の【健康情報】でも取り上げたように、発表が遅れていた『栄養所要量』が公表された。概念が変わってしまったので、前回との比較がむずかしいのだが、5年前の『第6次改定 日本人の栄養所要量』(の所要量)と今回の『食事摂取基準(2005年版)』(の推奨量)とを比べてみよう。今回「推奨量」が示されなかった栄養素については「目安量(充分な科学的根拠が得られない場合の推奨量に匹敵する概念)」と比較することにする。ただし、全年齢・性別について示すことはできないので、ここでは「30〜49歳・男性」を例として取り上げる。 前回よりも数値が減少した栄養素は、タンパク質、ビタミンB6、ナイアシン、ビタミンE、鉄、モリブデン、銅、亜鉛、セレンなど。 逆に増加した(摂取量を増やすほうがいいということになった)栄養素は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、葉酸、ビオチン、パントテン酸、ビタミンD、ビタミンK、マグネシウム、カルシウム、リン、クロム、食物繊維など。 「前回と同じ」「比較しにくい」あるいは「表現がむずかしい」栄養素としては、総脂質、飽和脂肪酸、n−6系脂肪酸、n−3系脂肪酸、コレステロール、炭水化物、ビタミンB12、ビタミンC、マンガン、ヨウ素、ナトリウム(食塩)、カリウムなど。 こうしてみると、増えたもの・減ったもの・それ以外、がなんとなく均等で、一言でいうと「増えたものもあり・減ったものもあり、栄養イロイロ」などと、無責任なコメントをしたくなるが、中身を詳しく見てみると、そうノーテンキなことをいってる場合ではなさそうなのだ。 ●厚生労働省は「どんな料理を食べればいいのか」を示すべきである 推奨量(あるいは目安量)が減少した栄養素であっても、けっして「摂取量を減らすほうがいい」というわけではない。エネルギー以外は、多めにとっても上限値を超えなければ問題はない。上限値というのは、ほとんどの栄養素において、推奨量よりも1桁も2桁も多いので、サプリメントなどで摂取するのででもなければ、過剰摂取による健康障害などは考えられない。そのため、今回の改定である栄養素の「推奨量が減った」からといって食生活を特に変える必要はないといえるだろう。 例外として、タンパク質と脂肪に関しては、上限を超えている人もあるようなので、そういう人(一言でいうと「肥満している人」と考えてよい)では摂取をおさえるほうがよさそうだ。 一方、今回「推奨量(あるいは目安量)が増えた栄養素」に関しては、問題が生ずるものもありそうだ。たとえ推奨量が増えても、摂取量が元もと多い栄養素(たとえばビタミンA・D・K、葉酸など)や、そこそこ摂取できている栄養素(ビタミンB2、パントテン酸、リンなど)では、大きな問題は生じない。 問題が生ずるのは、従来から不足していた栄養素である。とりわけ、カルシウム、食物繊維、ビタミンB1の3つに注目しなければならない。 ビタミンB1は、今までの基準でも“ギリギリセーフ”の栄養素だ。半分以上の人はクリアしているが、半分近い人は不足しているはずである。今回、ビタミンB1の摂取基準が3割近くも増えたことによって「大半の人が不足する」事態を招くことになるだろう。 食物繊維は、従来は「20〜25gを摂取することが望ましい」とされていたが、今回は「目安量26g」となった。現在、食物繊維の平均摂取量は約14gなので「大幅に不足している状態」である。 カルシウムも大きな問題である。ご承知の通り(ご承知ではないかもしれないが)、カルシウムは「かなり以前から不足しているといわれ続けているにもかかわらず、いっこうに摂取量が増えない唯一の栄養素」だ。所要量が600mgなのに対して、摂取量は500mg以下と、かなり足りない。今回「目安量650mg」と増えたが、達成できる可能性はきわめて低い。それを考慮して「目標量600mg」が示されている。 現在でさえ達成できていないのに「必ずしも充分な科学的根拠がない目安量」として650mgを示す必要があるのかどうか、疑問である。 ビタミンB1、食物繊維、カルシウムの摂取量を増やすには、基本的には、食事の全体量を増やさなければならない。しかし、食事摂取量の基本となるエネルギーは、肥満との関係で(あるいは食塩摂取量が増加してしまうこともあるので)これ以上増やすことは勧められない。加えて、タンパク質摂取量も控えめにしなくてはならない。栄養士ででもなければ、エネルギー・タンパク質・食塩摂取量を増やさずに(あるいは減らして)、カルシウム・食物繊維・ビタミンB1を増やすことなどは実現不可能であろう(栄養士でもむずかしいであろうと推測する)。 結果的に「健康を気にする多くの人たち」はサプリメントを利用することになるのではないだろうか。今回の食事摂取基準(2005年版)を受けて、サプリメント業界はさぞかし活気づくことであろう。 新しい食事摂取基準を策定した検討委員会のメンバーと厚生労働省は、日本においては「サプリメントで栄養摂取することによって健康が改善されたという科学的根拠のあるデータはほとんどない」ことを明言すべきだし、また、「エネルギー・タンパク質・食塩の摂取量を増やすことなく、カルシウム・食物繊維・ビタミンB1の摂取量を増やす」ための具体的食事法(どういう料理を食べればいいのか、どういう食生活を送ればいいのか)をはっきりと示すべきである。 (2005/12/1 佐藤達夫)
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