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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
サプリメントで健康になるのはとってもむずかしい
●サプリメントだけで健康になったという科学的証拠はほとんどない

 2004年12月の【コラム】にも書いたとおり、通常の食生活ではクリアするのがかなり困難な食事摂取基準が厚生労働省から発表されたことにより、ここ5年の間に大きな「サプリメントブーム」が訪れると私は危惧している。「危惧している」ということばを用いたことからも想像してもらえると思うが、私は「サプリメントで健康になるのはきわめてむずかしい」と考えている。

 これは何も私個人の偏見ではない。「サプリメントだけで健康になったという証拠はほとんど存在しない」という科学的事実に基づいた確信だ。誤解を招きそうなのでお断りしておくが、「サプリメントは効かない」といっているのではない。中には効くサプリメントもあるだろうし、効いた人もいるだろう。また、効くと信じて食べているうちに健康状態が改善した人もあるだろう(薬や食べ物の効果として「信ずるものは救われる」というのは事実である)。

 ただし、サプリメントというのは、ある個人には効いてもそれが他の人にも効くという科学的保証はない。

 その証拠に、サプリメントのPRは「私には効果がありました」という個人の感想しか登場しない。「どのくらい食べれば○○という病気が改善します」あるいは「予防できます」ということは一言も書かれていない。サプリメントは「薬ではなく食べ物」なので、これは当たり前のことなのだが、多くの利用者はこのことを理解していない。

●サプリメントが「栄養バランスの乱れをより大きくする」危険性もある

 私は、サプリメントも利用法(食べ方)によっては、健康改善に役立つと考えているのだが、正しく利用するには、サプリメントはあまりにも食べ方がむずかしいのである。

 サプリメントは栄養補助食品である。つまり「栄養素は食事からとることを基本とし、何らかの理由で食事からの栄養素補給がうまくいかないときに、それを補う意味でサプリメントを食べる」というのが正しい食べ方である。この正しい食べ方を実行するには、自分の食事あるいは身体の栄養素バランスがどうなっているかがわかること(これを栄養アセスメントという)が前提になる。

 ただし、栄養アセスメントがきちんとできる人というのはそう多くはいない。栄養士さんでもかなりむずかしい。これは私の推測だが、サプリメントを利用しようと考える人の多くは「食事の栄養素などをいちいち考えるのは面倒なので(仮にやろうとしてもできないので)、不足しているかもしれない栄養素についてはとりあえずサプリメントで補っておこう」と考えるのではないだろうか。つまり、サプリメントに頼ろうとする人は栄養アセスメントのできない人であり、逆に、栄養アセスメントがきちんとできる人は、サプリメントに頼らずに食事で栄養バランスを整えることができる、という根本的な矛盾にぶつかるのである。

 この矛盾が、大きな(そして重大な)誤りを産む。自分の食事の栄養バランスが把握できない限り「どの栄養素が不足していて、何が過剰なのかはわからない」はずである。そのため、栄養バランスをよくしようとしてサプリメントを利用するがために、逆に、栄養バランスを大きく崩してしまう危険性がある(不足している栄養素を補わずに、過剰摂取している栄養素を上乗せしてしまう可能性がある)のだ。

 実は、このことは普段の食生活でも起こりうる現象だ。「最近肉が不足していると感じて、実際には肉が過食気味であっても、さらに肉料理をたくさん食べてしまう」というケースは少なくない。しかし、この場合の害はそれほど大きくはない。この場合も確かに「肉の食べすぎ」にはなるが、肉を10倍も余計に食べることはほとんどない(物理的に食べられない)。

 しかし、サプリメントの場合はそうはいかない。サプリメントでは、基準の10倍を摂取することはいとも簡単である。10倍というとものすごい量であるが、場合によっては、100倍以上をとってしまう可能性もある。この場合の健康被害は誰も保証してはくれない。

 つまり、サプリメントの利用はこのようにむずかしいので、利用にあたっては「専門家のアドバイス」が不可欠だ。巷にはサプリメントの利用法をアドバイスしてくれる人たちがいることはいる。ただし、彼等(彼女等)のほとんどが、サプリメント販売店かサプリメント生産会社の人である。彼等からは「あなたの場合はサプリメントをとらないほうがいいですよ」というアドバイスは得られない。できるだけ多くの(財布が許す限りの)サプリメントを買わされることになるのがオチである。「サプリメントを買わずに食生活を改善して栄養バランスを整えなさい」というアドバイスをも含めて、適切な情報を提供してくれる人たち(制度)の出現を切望する。

 平成16年5月に、独立行政法人国立健康・栄養研究所がNR(Nutritional Representative=栄養情報担当者)制度の認定を開始した。「健康・栄養食品に関する適切な情報・知識を有し、消費者に対して適切な情報を提供できる人材の育成」を目的に発足した制度だが、この制度が「サプリメントの販売促進制度」にならないよう、強く希望する。

 欧州には「床屋に行って“そろそろ散髪するほうがいいだろうか?”と聞いてはいけない」という諺があるそうだ。答えは「YES」に決まっているからだ。NR認定試験合格者の中の「サプリメント関連会社の人の割合」というのをぜひ知りたいものだ。
(2005/3/6 佐藤達夫)