がんばれ! 食品安全委員会 ●日本人で初めての新型CJD発症! 『適食情報』ではBSE関連の記事を何度か掲載してきた(【健康情報】ではバックナンバー9と13、【コラム】ではバックナンバー8、12、13)。基本的には「現在日本で販売されている牛肉は、100%とはいえないがそれに限りなく近いレベルで、安全である。アメリカの牛肉も、日本の牛肉に比べると安全性はやや低下するかもしれないが、食べた人がプリオン病に感染する確率はごくごくわずかであろう」という内容である。主たる情報源は日本の食品安全委員会だ。 「楽観的すぎる」と消費者団体の方から指摘を受けたこともあるが、自分としては科学的な評価と報道をしてきたつもりである。 しかし、ここに来て、新しい事態が2つ発生した。1つは、日本人で初めての変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)患者の発表である。vCJDというのは、脳が海綿状になって死に至るプリオン病の中で「BSEに感染した牛肉を食べたことが原因」の新型プリオン病である。 食品安全委員会でも想定していなかった(?)事態である。●本当に「外国で感染した」のか? 厚生労働省はいち早く、この患者が「1990前半に、vCJD患者発生国である英国に24日間程度、フランスに3日間程度滞在」していたことと「英国においてvCJDの発生原因である可能性が指摘されている食品を摂取した」ことを発表した。 この患者は、2002年12月にすでにクロイツフェルトヤコブ病(CJD)である疑いがあったが、2004年12月に死亡後の検査で、新型(=BSEに感染した牛肉を食べたことが原因)のvCJDであることが確認された。 BSEのウシ(BSEというのはウシに決まっているのだが)が確認されたときの日本中の大騒ぎから想像すると、もし今回のvCJD患者の発表が2002年に行なわれていたら、日本国内は大パニックに陥ったであろう。それに比べると、意外にも、今回は驚くほど静かである。 まだ「英国で感染した」ことが明らかになったわけではないのに、多くの国民は、厚生労働省の「患者の英国滞在(たった24日!)強調」発表を信じているようだ。 私は、BSEが国内で確認されたときの消費者団体の反応に対しては「騒ぎすぎ」と感じたが、今回は「騒がなさすぎ」と懸念する。みんな、どうしてこんなに冷静なの? 関係省庁のお役人は「これこそリスクコミュニケーションの成果」と溜飲を下げたという。●検証しなくてはならない問題は山積している 2つめの事態は「米国の圧力が表面化した」ことである。 現在、日本の食品安全委員会は、世界中のどの国よりも高レベルの「プリオン病の検証」を行なっている。大量の牛肉を外国から調達せざるをえない国としては当然である。 「食べてはいけない部位というのは正確にはどの部分か」「何ヶ月齢以下のウシならば安全性が高いのか」「全頭を検査すると安全性はどの程度高まるのか」「ウシからウシへの感染率とウシからヒトへの感染率はどの程度差があるのか」等々、科学的に検証しなくてはならない課題は山積している。 しかも、食品安全委員会は、今後日本人にvCJD患者が発症する確率(外国での感染を除いて)を、「きわめて少ない」という言葉での表現にとどまらず、「年間に0.1人〜0.9人だろう」という数値での発表まで行なっている。これには「数字が一人歩きする」「根拠を示せ」という批判もあるが、私は「きわめて少ない」などという文学的表現よりは評価すべきだと考える。 食品安全委員会は、非常に少ない情報を糸口にして、できるだけ具体的かつ科学的成果を上げている。●食品安全委員会は科学的検証を継続してほしい 「早く結論を出せ=アメリカ牛肉の輸入を解禁せよ」という米国からの圧力を受けて、「時間がかかりすぎる」といい出す日本の政治家も出てきた。これほど難しい問題なのだから、検証に時間がかかるのは当たり前ではないか。 百歩譲って、結論を早く出すことには異論はないとしても、「早く許可しろ」という圧力に負けてはならない。 3月29日、食品安全委員会は「20ヶ月齢未満のウシからプリオンが検出される可能性はきわめて低い」とし「全頭検査の必要はない」という内容の答申を行なった。 しかし「20ヶ月齢以下のウシは安全である」という科学的根拠はない。「20ヶ月齢以下のウシからはプリオンが発見されていない」という現状があるだけである。これをもって、米国産牛の輸入解禁宣言とすることはできない。まして、米国産牛はその飼育状況から月齢判定が困難であることは明らかである。 米国は、3月31日に「BSE問題は日米間の最重要課題であり、正当な理由なき貿易障壁である」という声明を発表した。このような発言が食品安全委員会に影響を与えるようなことがあってはならない(日本政府はとっくに影響されているが)。 日本の消費者は、今こそ、食品安全委員会を応援すべきである!(2005/4/1 佐藤達夫)★PR★NHK出版から発行されている『きょうの料理』4月号から1年間、佐藤達夫が「食材今昔物語」という連載を始めました バックナンバーはこちら