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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
「健康寿命」を延ばすために家庭で血圧を測ろう
●加齢は防ぎようがないが、死ぬまで健康でいたい

 日本人の平均寿命は、女性:85.3歳、男性:78.4歳で、女性は世界第一位、男性はアイスランドに次いで世界第二位である。また、「健康で長生き」であるかどうかの指標となる「健康寿命」でも、日本人は女性:77.2歳、男性:71.9歳(1999年の数値)で、世界第一位であることがわかった。とてもうれしい結果である。

 しかし、この数値をよく見ると、健康寿命と平均寿命との間に、女性では約8年、男性では6年以上の差があることがわかる。この差こそ「健康ではない寿命=障害のある生存期間」を表している。喜んでばかりもいられない。

 加齢は防ぎようがないが、できることなら、年をとっても「寝たきり」にはならずに「自分のことは自分でできる」状態でいたいものである。

 先月(2005年4月)の【健康情報】でお知らせしたように、東北大学大学院薬学・医学系研究科臨床薬学教授の今井潤さんは「寝たきりの原因の約50%は高血圧」と推測している。高血圧は自覚症状がまったくといっていいほどないので、放置することが多く、気がついたら脳血管障害や心血管障害などの致命的な病気になってしまっていて“手遅れ”ということが少なくないのである。

 今井さんはそれを予防するために、普段から家庭で血圧を測ることを強く薦めている。

●病院で血圧を測ると高い人と、家庭で測ると高い人の2タイプがある

 中年以上の人の多くはどこかで血圧を測ったことがあるはずだ。日本は家庭血圧計の普及率が高く、現在、約3000万台もの簡易血圧計が各家庭に備えられていると推定されている(こんな国は世界でも日本だけ)。

 家庭と病院の両方で血圧を測ったことがある人もいるだろう。2箇所で測った血圧値がほとんど同じならば混乱はないのだが、大きく差の出る人がいる(血圧は分刻みで変動しているので、測る場所や時間が違えば異なる数値が出るのは当たり前なのだが)。これには2つのタイプがある。

1:家庭で測ると低いのに病院で測ると高く出てしまう人。
2:病院で測ると低いのに家庭で測ると高い人。

 1を「白衣高血圧」という。こちらは血圧が高いことが医師に伝わるので治療が遅れることは少ない。

 問題は、比較的最近に発見されるようになった2のほうだ。医師が測ると正常血圧なので「高血圧症」とは診断されないのだが、家庭で測ると血圧が高い。つまり、日常的に高血圧である可能性が高い。こちらは「仮面高血圧」と呼ばれ、治療が遅れることがある。(ちなみに、若い美人の看護師さんが測るときにだけ高い男性患者は「好色高血圧」と診断される・・・・これはウソです)

●家庭で測る血圧のほうが「重要」であることがわかった

 最近まで、家庭で測る血圧は重要視されてこなかった。医者からみると「素人が計測した数値なんてあてにならない」というわけだ。しかし、今井さんたちが岩手県の大迫(おおはさま)という地区で行なった大規模研究によって、「家庭で測る血圧値こそが、脳卒中等の発症に深く関係している」ことが明らかになったのである。詳細はOhasama研究のホームページをご覧いただくとして(難解だが・・・・)、主なポイントだけを簡単にご紹介する。

 当然、病院で計測した血圧値が低い人よりは高い人のほうが、将来的に脳卒中を発症する確率は高い傾向にあったのだが、両者の間に明らかな差はなかったのである(これは従来の医学的常識を覆す驚くべき結果である)。つまり、病院で計測された血圧値と「将来の脳卒中発症」とはそれほど大きな関連性はない、ということになる。

 これだけを見ると「血圧が高くても気にすることはないじゃないか」と感ずるかもしれないが、そうではない。大迫地区の人たちは、病院での血圧測定と並行して家庭でも血圧を計測した。その結果、「家庭で測った血圧値が高い人たちは、将来的に脳卒中を発症する確率が明らかに高い」ことが判明した。

●家庭血圧は「135/85」以上なら高血圧

 大迫地区では20年前から、今井さんたちによる「家庭で血圧を測る」研究が続けられている。この研究によって、上記の事実が判明しただけではなく、大迫地区では、脳卒中患者の数が明らかに少なくなった(こちらが大事!)。

 この種の研究では、時たま、「ある病気は減ったけれども他の病気が増えていて、じゃ、プラスマイナスゼロ?」というケースもあるのだが、大迫では脳卒中が減少しただけではなく、全体の死亡率も明らかに低下した(つまり地区全体の人が長生きになった)。

 また、一人当たりの医療費の増加率も他の地区より低く抑えられたのである。大迫地区では、各家庭に自動血圧計を配布したり、家庭で血圧を計測することを管理したりするための費用がかかったが、脳卒中や他の病気の治療にかかる費用が減ったために、全体の医療費は相当に少なくなったと報告されている。

 この結果は、WHO(世界保健機構)に承認され、「大迫の基準が世界の基準」として採用されることになったのだという。近い将来「血圧の管理は家庭血圧で!」となる日が来るだろう。

 大迫では“思わぬ付録(?)”もあった。それは、20年前に比べてガンによる死亡率が低下したのである。この結果をもって「家庭血圧計はガンを予防する」という結論を出すには至らない。しかし、家庭で血圧を測るということは、自分の健康に関心を持つことになり、生活改善につながったことと、ガンを早期に発見することができるようになっためにガン死が減少したのではないかと今井さんは見ている。

 最後に大事なことを1つ。

 病院で測った場合の高血圧症の基準は「収縮期血圧が140以上/拡張期血圧が90以上」である(→先月の【健康情報】参照)。これに対して、家庭で測る血圧では「上が135/下が85」以上は高血圧症と認識して、生活改善などの治療を開始しなくてはならない。 

 家庭血圧では「135/85」以上のグループで、将来的に脳卒中を発症する確率が明らかに高かったからだ。いくら家庭血圧を測っても、生活改善を実行しないのではまったく意味がない。

(2005/5/1 佐藤達夫)
 
★PR★NHK出版発行の『きょうの料理』4月号から、佐藤達夫が「食材今昔物語」というコラムを連載しています。