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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
「食事バランスガイド」の問題点
●食教育(食育)の推進母体であるはずの文部科学省はどうしたの?

 今月(平成17年10月)の健康情報で紹介したとおり、日本人のための食事バランスガイドが発表になった。

 これほど「健康のためには食生活(と運動)が大切」といわれながら、大半の人が「何を・どれだけ」食べればいいかを正確には知らないのが現状である。7月に発表になった食事バランスガイドを、一人でも多くの人が身につけて実践してほしい・・・・というのが、正直な私の心境だ。

 ではあるが、この食事バランスガイドをよく見てみると、いくつかの問題を含んでいるといわざるを得ない。気がついた点を指摘しておきたい。

◎今回の食事バランスガイドの提唱者は農林水産省と厚生労働省である。なぜ(肝心の?)文部科学省が入っていないのか? 食事バランスガイド作成目的の中に、「食生活指針を具体的な行動に結びつけるものとして」今回の食事バランスガイドが作成されたと書いてある。食生活指針というのは、平成12年に文部省(当時)と厚生省(当時)と農林水産省が合同で策定した指針である。

 また、この食事バランスガイドは平成17年に成立した食育基本法と深く関連していることは明白である。食育基本法の推進母体である文部科学省が主催者の一員となっていないのは不思議である。不思議というよりも、いくら「より多くの方々に活用されることが重要である」とうたわれていても、学校教育の場で取り上げられないのでは、普及はかけ声だけに終わる可能性がきわめて強い。

 健康情報にも書いたが、小学校で栄養三色運動を知り、中学校で6つの食品群を習い、高校で四群点数法を学んだ子供が、新たに食事バランスガイドと出会っても、そう簡単に生活習慣の中に取り入れられるとは考えられない。今回、文部科学省が含まれていないのはなぜなのか、何か「抵抗」があるのならそれを明らかにし、早々に解決して、学校教育の場に食事バランスガイドを取り入れる必要があるだろう。

 「まずは大人から」などという発言(農水省)からは、この食事バランスガイドを本気で普及させようという意気込みは感ぜられない。

●「何を減らせばいいか」が一目ではわからない

◎現在、日本人の栄養状態は(平均値で見ると)かなり良好な状態にあるといわれている。そのために、平均寿命はつねに世界でも1、2位を争っている。そういう意味では、日本人の食生活は「大改革」が必要であるというわけではない。ただし、平均値で見ると良好ではあるが、個人的には大きく偏った食生活をしている人もいることは間違いがない。

 その人たちが健康的な人生を送るためには「食生活の修正」が必要であることも事実だ。

 私の個人的な意見としては、日本人の栄養上の問題点は3つある。
1:脂質の摂取比率が高い
2:食塩の過剰摂取
3:カルシウムの摂取不足

の3点だ。よほどひどい食生活をしている人ででもない限り(残念ながら、そういう人も増えてきているのではあるが)、この3点を改善すれば、日本人の食生活はかなり理想に近くなるといわれている。

 とすれば、多くの日本人にとっては、この3つの改善点が一目でわかる(これが大事!)ようなガイドがほしい。今回の食事バランスガイドは「何を・どれだけ食べればいいか」は示されているとしても、この3つの改善点が端的に示されているとはいいがたい。

 脂肪、砂糖、アルコール飲料、食塩の摂取量を減らそうということが一目瞭然でわかるような工夫が必要であったろう。「食事バランスガイドに描かれていないものは摂取量を減らしたいというように理解してほしい」(農水省)という程度では、脂肪や砂糖やアルコール飲料や食塩の摂取量は絶対に減らない(そもそもこれらは日本人にとっては減らしにくい物なのだから)。

 また、牛乳・乳製品が「優先順位の低い場所」に示されていることも理解しにくい。子供の成長あるいは中高年者の骨粗鬆症予防のために必要なカルシウムは、現在、日本人に大きく不足している(平均値で)栄養素である。

 カルシウムは、牛乳・乳製品からだけではなく、小魚類や緑黄色野菜類からも摂取することが望ましいことは承知しているが、効率的にとるには乳製品が一番である。

 さらに、牛乳・乳製品は、カルシウムだけではなく、良質のタンパク質やビタミンやミネラルなどを豊富に含む食材である。これらを、「タンパク質食品のグループ=主菜」から外して、1ランク低い位置に下げたのはどういう理由からなのか・・・・。「主菜グループからわざわざ独立させて注目を集めようとした」(農水省)という説明は何とも釈然としない。

●料理はその中身に大きな差があるので注意が必要

◎一方では、ひもで菓子や嗜好飲料を示してある。ひもがなければコマは回らない(つまり倒れてしまう)ので、菓子や嗜好飲料は「なくてはならない物」という位置にあることを示している。食文化上あるいは日常生活上、菓子や嗜好飲料が大切であることに異論はない。しかし、食事ガイドバランスで「なくてはならない物」として位置づける必要があるのかどうか。

 わざわざ「なくてはならない物」として示さなくても、菓子や嗜好飲料が不足する心配はないだろう。逆に、そのように示すことによって「過剰摂取」になる(今でも多くの人では過剰摂取状態である)ことのほうを危惧すべきだと考えるが、いかがなものだろうか。

◎今度の食事ガイドバランスでは、食材ではなく料理で示してある。たしかに、調理をしない人、コンビニや外食店を利用する機会の多い人、中食や加工食品を食べる機会の多い人には、このほうがわかりやすいかもしれない。ただし、今まで「食材を基本にして栄養バランスを考えてきた人」にとっては使いにくいガイドとなった。

 また、料理は、作る人によってその中身(材料や調理法)が著しく異なる。同じ「ラーメン」や「ハンバーグ」であっても、エネルギーや栄養素量は同じではない。そのあたりの「加減」は素人にはかなりむずかしい。使い方(使われ方?)によっては、栄養バランスの偏りが生ずる危険性をはらんでいる。

 どうやら、「食材で栄養バランスを考えられる人はかなりレベルの高い人」であるととらえ、それよりも「レベルの低い人の底上げ」を主眼としているようだ。それには一理ある。であるにしても、現在「食材で栄養バランスを考えている人」にとってはなじみにくいガイドとなった。こういう人たちは「無理にこの食事バランスガイドを取り入れる必要はない」と考えるべきなのかもしれない。

 ただし、指導的立場にある人は別である。「今度の食事バランスガイドは素材ではなくて料理で示してあるので使いにくい」とグチをいってる暇があったら勉強をして、啓蒙・普及に励まなくてはいけない。その前に、まず自分が熟知して普段から実行する努力が必要である。

 以上、まだ普及してもいないうちにケチをつけることになって心苦しいのだが、何点かを指摘した。よりよいガイドを作るための見直しは一定期間ごとに行われることだろうから、皆さんもつねに着目しておいていただきたい。

 ただし、「まずは広く普及することを願う」点では、私も主催者と全く同じであることは強調しておきたい。

(2005年10月4日 佐藤達夫)