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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
食品業界よ、胸を張れ!

●料理も来賓も超豪華な製薬協のフォーラム&懇談会

 平成17年12月6日、東京都千代田区の経団連会館で、日本製薬工業協会主催の「フォーラム2005−−基礎研究から創薬へ」という講演会が開催された。講師は総合科学技術会議議員で文化勲章受章者である岸本忠三さん。

 講演内容は学術的にハイレベルであり、残念ながらよくは理解できなかった。自分の英語力のなさを棚に上げてこんなことを言うのは恥ずかしいのだが、一般人対象の講演で英語のスライドを使うのはいかがなものか。少なくとも「できるだけ多くの参加者に理解してもらおう」という配慮には欠けていたといえるだろう。

 それはともかく、圧倒的に迫力があったのは、講演会に続いて開かれた懇談会である。料理の豪華さもさることながら、来賓の顔ぶれの豪華さにはいささか驚かされた。国会議員(市議会議員ではない)のセンセイたちが次から次へと登場する。

 厚生労働大臣の川崎二郎さんをはじめとして、多くのセンセイたちが会場に到着するたびに、司会が壇上にあげて紹介をする。20人くらいまでは数えていたのだが、きりがないので、数を確認するのをあきらめた(それほど多くのセンセイたちが駆けつけた)。

 乾杯も終わり、懇談会が始まってから到着するセンセイもいるので、センセイたちの挨拶に耳を傾ける参加者はしだいに減ってくる。それでも「挨拶」をさせてもらえるセンセイは、川崎大臣を始め、元内閣総理大臣で民主党最高顧問の羽田孜さん、元厚生大臣の丹羽雄哉さんなど「超大物」の数人のみ。あとのセンセイがたは数人ずつ壇上に上げられて名前を紹介されるだけ。

 「挨拶」は国会議員の生命線ともいえる。他の会合であれば、いずれも、5分くらいの挨拶は必ずするであろうセンセイたちばかりなのだが、ここではさせてもらえなかった・・・。「とりあえずお祝いに駆けつけた」というよりも「呼びつけられた」という印象(私の個人的印象デス)が強い。

 このことを見ただけでも、センセイたちがいかに製薬業界に“借り”があるのかがよくわかる。つまり製薬業界が、政界に対して膨大なお金を使っていることが一目瞭然となった懇談会であった。

●食品は「脇役」から「主役」へと移っている

 講演会でも懇談会の挨拶でも、つまるところ「薬がいかに国民を幸せにするか」が強調されていた。今までに、「薬」が多くの病気を克服し、病人を治療し、寿命を延ばし、人類を幸せにしてきたことは疑うべきもない事実だ。新薬の開発によって地球上から姿を消した疾病は、枚挙にいとまがなく、異論を挟む余地はない。

 製薬業界関係者は、これからも人類の幸せのために、よい薬の研究・開発に励んでいただきたい。高度な医学や薬学でしか治療できない疾病がまだまだたくさんあるのだから。

 しかし、現代の(先進諸国に見られる)多くの病気は、食習慣と運動習慣を中心にした生活習慣の乱れから発症していることも、明らかな事実である。とりわけ食習慣は重要だ。適正な食習慣は、日本人の三大死因であるガン・心疾患(虚血性心疾患)・脳血管疾患の多くを予防・治療する。生活習慣の改善で予防できなかったケースを、医療や薬剤にカバーしてもらうのである。

 かつての結核のように、医学・薬学が治療の中心であり、補助的に養生(栄養と休養)が加わる、ということではなくなってきている。生活習慣病にあっては、予防の主役が「食」を中心にした「生活習慣の改善」でありであり、脇役が「医薬」なのである。

 「食」業界の人たちはこのことをもっと前向きにとらえなくてはならない。

●食品は薬品とはまったく別の道を誇りを持って歩むべき

 いま食品業界と薬品業界の関係は不自然だ。「食」に携わる人たちの中には、自社のおいしい食品をできるだけたくさん食べてもらい、その結果として生活習慣病になってしまったら「医薬」にお世話になればいい、という無責任な倫理観の元に活動を行なっているケースが少なくない。

 一方では、「食品の薬品へのすり寄り」が見られる。つまり、食品の中の薬効成分を強調して「こういう薬効があるからこの食品を食べてください」という宣伝が目立つ。“医食同源”という言葉が示すように、食品の中に薬効成分が含まれていることは確かである。しかし、そのことをことさら強調するのは品がない、と感ずるのは私だけであろうか。

 食品に含まれている薬効成分を強調するだけならまだいいとしても、本来は含まれていない薬効成分を「添加」してそれを売り物にするのは食品業界人としていかがなものか。

 食品業界はもっと誇りを持って食品のすばらしさをアピールすべきではないか。食品には薬品にないすばらしさがたくさんある。

 食品にはおいしさがある。
 食品には楽しさがある。
 食品にはコミュニケーションがある。
 食品には文化がある。
 食品には美しさがある。
 食品には香りがある。
 食品には温かさや涼やかさがある。
 書き出せばキリがない・・・。  

 薬品が多くの人を幸せにしてきたことは間違いのない事実だ。しかし、薬品が幸せにしてきた人たちは、そのすべてが「病人」である。食品は病人をも含めて全人類を幸せにすることができる。食品の持つ力は薬品のそれよりもはるかに大きい。

 食品業界は、責任を放棄したり、薬品にすり寄ったりすることなく、胸を張って活動すべきである。

 先ほど書いたように、製薬協主催の懇談会に供された料理はすばらしく豪華であった。が、その内容は、調理法こそ、生物・揚げ物・焼き物・蒸し物と変化に富んではいたが、食材はほとんどが肉と魚介類。生活習慣病の原因の「お手本」ともいうべき料理のオンパレード。

 「こういう料理ばかりをたくさん食べて、病気になったら薬で治してください」というアピールだったのだろうか・・・まさかね。

 よけいなことを書きすぎたきらいがありますが、今年最後のコラムです。
 皆様、よいお年をお迎えください。年末年始、食べ過ぎ・飲み過ぎにご注意を!

(2005年12月12日 佐藤達夫)