適食情報タイトル 適食情報TOPへ
コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
『おもいッきりテレビ』不出演顛末記

●「こういう時だからこそ出演していただきたいんです」

 平成19年1月26日のこと、さる独立行政法人(消費者の強い味方の組織です)の知人から、電話があった。
 「おもいッきりテレビのQディレクターさんが、佐藤さんに出演を依頼したいというのですが、連絡先を教えてもよろしいでしょうか」
 「それはもちろんかまいませんが、ご存じのように私は自分のホームページ(この『適食情報』のこと)で、みのもんたさんやテレビ番組を批判してますが、それでもいいんですかね? 一応、そのディレクターさんに私のホームページを見て、それでもよかったら電話をくれるように伝えてください」
 「わかりました。そう伝えます」

きっと、これで連絡はこないだろうと思っていたのだが、
 「おもいッきりテレビのQと申しますが、佐藤先生でいらっしゃいますか?」という電話が入ったのは、それから30分もたたない時刻だった。
 「先生ではありませんが、佐藤です。私のホームページは見ていただきましたでしょうか? それでもかまわないんですか?」
 「いえ、むしろ、こういう時だからこそ、佐藤先生のようなかたに出演していただきたいのです」
 こういう時というのは、もちろん、テレビ番組『発掘!あるある大事典』のねつ造事件を指している。
 「わかりました。で、どういうテーマでしょうか?」
 「スーパーで売られている食品を、安全な物と安全じゃない物とにズバッと分けてもらいたいんですが・・・」
 「私は、いまスーパーで販売されている食品は、基本的にすべて安全だと思っていますので、安全じゃない食品を指摘することはできませんが・・・」
 「アッ、そうですよね。じゃ、より安全な食品を見分けるポイントみたいなことを教えていただけませんでしょうか」
 ということで、電話による取材がスタートし、1時間以上は話しただろうか。

●テレビ的にはチョットもの足りない・・・?

 電話取材のあとで、Q氏が「できるだけ早くお目にかかりたい」というので、29日の20時30分に志木駅で待ち合わせることにした(その日、私は地方に出張しており、18時30分頃に戻ってくる予定になっていた)。タイトなスケジュールであったが、先方が「すごく急いでいる」ということなので、打合せが夜になってしまったのである。「テレビ局では普通の時間ですので・・・」とQ氏はいう。

 「テレビ局のディレクターなんて、きっと傲慢な感じの人が多いんだろうな」というのは私の偏見で、時間通りにやってきたQ氏は、とても礼儀正しい人であった。こちらの言うこともよく聞くし、自分の意見もしっかりという。この時点で、私に「こういう人が作っている番組なら、だいじょうぶなんじゃないか」という小さな安心感が生まれた。

 喫茶店で、JAS法食品衛生法の「抜け穴」、あるいは、世間で勘違いされている「食品の安全性」、法に触れてはいないがフェアではない食品メーカーの表示例、テレビや雑誌やベストセラー単行本の非科学的内容などについて、約2時間くらいにわたってお話しした。そして最後に「私が健康にとってもっとも重要だと思うことは、何を食べるかではなく、どのくらいの量を食べるかだと思いますよ」と伝えた。

 Q氏は「テレビ的にはちょっともの足りない・・・」というそぶりを見せはしたものの、しっかりとメモをとり、「この情報を元にして、会議を開き、仮の台本を作って、FAXでお送りします」と帰って行った。
 信頼できる人だ、というのが私のQ氏に対する印象だった。

●打合せになかった内容が台本に書かれてきた

 翌30日の夜に、会議の結果を反映した仮の台本がFAXで送られてきた。
 前日の私との打合せをしっかりと反映できている部分もあったが、まったく考え違いしている部分もある。そういう部分は、次の打合せのときに指摘して直せばすむことである。雑誌などの取材でもよくあることだ。

 しかし、台本(仮台本)を全部読み終えたたきに、今度は、私の中に小さな不信感が芽生えた。
 台本の大部分(量にして4分の3くらい)は、私が提供した情報を元にして書いてあるのだが、残り4分の1くらいはまったく私が話していないことが書かれていたのである。
 これをたたき台にして近日中にもう一度打合せをしたいという。放送日は2月7日と決まっているので、できるだけ早い日に打合せの機会を作ってほしいという。たしかに熱心ではある。

 2月1日は千葉市に14時までに行かなくてはならない日であったが、その前、10時くらいに東京駅で打合せをしたいという。いわゆるエキナカの喫茶店で会うことになった。
 私は、私のチェックで真っ赤になった台本と、私がボツにしたい部分に挿入する新しい情報を持って行った。Q氏は、そんな私の対応を、いたく喜んでくれるのだが、正しくはあってもインパクトに欠ける(らしい)私の提案を採用する気はないようだ。
 その代わりに、「会議でウエからこんなことを言われたんですが・・・」と、インパクトのあるアイディアを私に提案した。それは、スーパーの食品売り場で、「これさえ見ればそのスーパーがいいスーパーかよくないスーパーかが一目でわかる」というアイテムを、肉、魚、野菜からそれぞれ1つずつ選んで、テレビで紹介してほしい、というものであった。

 私は、そもそも「健康のためにはどういう食生活を送ればいいか」をテーマに活動している食生活ジャーナリストなので、そういう情報は持ち合わせてはいない。それに、たった一つのアイテムを見て、そのスーパーの“善し悪し”を判断することなど、不可能だと考えている。

●他人の情報を元にテレビで話すことはできない

 そこでお断りをしようと思ったのだが、Q氏はねばり強く私に迫ってくる。
 「その情報はこちらで入手します。信頼のおける情報源ですから間違いありません」。それを私が承知すれば、あたかも自分の情報であるかのようにテレビで発言することになるわけである。

 この類のテレビ番組ができあがっていく「過程」がよ〜くわかってくる。
 最初から「問題のある台本」があるわけではないのだ。最終台本に仕上げていく過程で、少しずつ「インパクトのあるほうへ」「面白いほうへ」「視聴率のとれるほうへ」とシフトしていくのだ。そして最終的にはエンターテインメント番組ができあがる。
 少しずつシフトしていくために、それに係わっている人間(例えば私のような出演者)が抵抗しにくいのである。

 しかし、これではまさしく「あるある・・・・」と同じである。ここまで来て、ようやく私にも断る決断がついた。
 ただし、断るのもそう簡単ではない。Q氏が、傲慢で、テレビずれをしており、人の言うことを聞かずに自分の意見だけを押しつけてくるような人であれば、むしろ断りやすい。やっかいなことに(?)Q氏はそういう人間ではない。冒頭にも書いたように、礼儀正しく、コミュニケーション力も優れており、話すことに説得力があり、笑顔も爽やかだ。
 しかし、よく見るとQ氏の名刺の最下行には小さな文字で(株)××××と、日本テレビではない社名が入っている。いわゆる下請けの製作会社に所属しているサラリーマンなのだ。会議ではテレビ局の「ウエの人」から、無理難題を押しつけられているのではないだろうか・・・。こんな直前になって断ったらQ氏に迷惑がかかるのではないだろうか・・・。という懸念もあったのだが、断るには今しかない。

 「他人の情報を、自分の意見のように発言することはできません。私が提供した内容に基づいて台本を作り直すのでなければ、他のゲストを探してください」とおそるおそる言った。
 「イヤ〜ここまで来てそうはいかないので、なんとかご出演いただけないでしょうか!」と引き留められると思ったのだが、テレビ局はそう甘くはない(笑)。
 「ハイわかりました。ありがとうございました」と、礼を言われてしまった。これには拍子抜けしたが、たぶん「内容が優先なので、内容とゲストがマッチしなかったらゲストを替えるように」という指示がウエから出ていたのだろう。私のほうから断ったので、思わず「ありがとうございます」というお礼の言葉が口をついて出たようだ(Q氏は正直な人なのである)。
   ★
 2日の夜、Q氏から私の携帯に電話が入った。
 「きょうの会議で、佐藤先生以外の方にゲスト出演したいただくことになりました。ありがとうございました。内容としては、佐藤先生からご提供いただいた情報もご紹介させていただきたいと思います。つきましては、お時間をとっていただいたことも含めまして、些少ではありますがお礼をお振り込みしたいので、銀行口座番号を教えてくださるようお願いいたします。今後、何かございましたら、ぜひともよろしくお願いいたします」

 かくして、私にとっての「おもいッきりテレビ不出演騒動」が終わったのだった。

(平成19年2月10日 佐藤達夫)