|
|
|
|
■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
|
|
|
|
|
江澤正平語録
●「かってに弟子」「かってに目標」
平成19年9月14日、江澤正平さん(「先生」というと怒られるので「さん」づけで通す)がお亡くなりになった。御歳95歳。死因は脳梗塞だそうだ。直前までお元気であった95歳の人の死因が、脳梗塞であろうがガンであろうが心筋梗塞であろうが、私にはあまり興味がない(医学的、統計学的、経済学的など、学問的には重要なことだが・・・)。 江澤さんについてはネットなどで調べてもらえれば詳しくわかるので、ここで改めて公なことを紹介するつもりはない。ひとこと「野菜の先生」と述べるだけにしたい。 私にとっても「野菜の先生」であることには代わりはない。私が「まるで見てきたかのように」書いたり話したりする野菜の情報は、栄養学的なことのほとんどは香川綾先生(故人・女子栄養大学大学の元学長)からのウケウリであり、栄養学以外のことのほとんどは江澤さんからのウケウリであることを、ここに告白する。 江澤さんは、私が「かってに弟子」だと宣言し、また「かってに生き方の目標とする」と決めた人だ。いずれも江澤さんから「許可」はいただいてない。 たしか1年くらい前のことだと思う。ある雑誌から「野菜についてお話しをしてくれる先生を紹介してほしい」と頼まれ、江澤さんをご紹介した。ところが、取材日の直前に江澤さんはガンの治療のために入院された。取材日の前日、江澤さんから直接に「ゴメンなさい。退院したら必ず約束は果たすから」という電話があった。 その4ヶ月後くらいにお見舞いに行ったときのこと、江澤さんは私の顔を見るなり「退院したらあの取材は必ず受けるから、もうチョット待ってて」とおっしゃった。私のほうが忘れていた。 90歳を超えてからも、待ち合わせは「御茶ノ水駅の聖橋口」と指定してきた。そこまで歩いてくるのである。タクシーを使うようにお願いすると「タクシー? ぼかぁ使わないよ」と笑うのが常だった。 私はフリーになってから、仕事開始時間が遅くなったので午前中に電話がかかってくることはそれほど多くはない。ところが、年に何度か朝の6時頃に電話が鳴ることがある。決まって江澤さんだ。 「江澤で〜す。佐藤さんね、野菜の硝酸が人体に影響を及ぼすというデータはある?」 年配のかたの中には、十年一日のごとく、いっつも同じことばかりいっている人があるが、江澤さんは90歳を超してなお、折に触れて新しい情報を入手しようとしていた。
●江澤さんのひとことで人生観が変わった
私が江澤さんから学んだことはこんなホームページのコラムで紹介できる量ではないのだが、その中のゴクゴクゴク一部、忘れっぽくなった私の頭でも、鮮明に残っている情報を「江澤語録」としていくつかご紹介したい。 ○まだ100回しか栽培してないんだよ 何の野菜だったか忘れたが、ほぼ100年くらい前に日本に入ってきたという野菜を試食していたときのこと。 「意外に昔から日本で栽培されていたんですね」と話を向けると、 「日本人はね、この野菜に関して、まだ100回しか栽培経験がないんだよ。100回作ったくらいじゃ何にもわかんないよね」 ○ぼかぁ無学識経験者だから あるシンポジウムのパネラーの人選をしていたときのこと。 「やっぱり学識経験者に入っていただくほうがいいですよね」とご意見を伺うと 「そりゃそうだけど、日本には学識経験者という人があまりいないんだよね。ほとんどは学識無経験者だから」 「江澤さんくらいでしょうか?」 「ぼく? ぼかぁ経験はたっぷり積んでるけど学問がないから、無学識経験者」 ○野菜には3つの顔があるんだよ 「野菜には『食品』『商品』『植物』という3つの顔があるんだよ。消費者は『食品』と思ってるし、スーパーなんかは『商品』としてしか見ない。学者やお百姓さんは『植物』としての顔も知ってるけど、『商品』や『食品』としての顔がよく見えない。 どれが欠けても野菜の正しい理解には結びつかない。八百屋は3つの顔をしっかり見られるようにならないといけないね」 ○野菜には毒草のほうが多いんだ 「みんな、単純に野菜は体にいいと思っているけど、野菜には『薬草』よりも『毒草』のほうが多いんだよ。『薬草毒草』っていう本を見てごらん(『薬草毒草300+20』朝日文庫)。薬用植物よりも有毒植物のほうが多いんだから。 野菜だって、動物に食べられちゃ困るんだから、食べられないような工夫をしてるんだよ。体内に毒を作ったりしてね。それを品種改良したり、栽培で工夫をしたり、調理で取り除いたりして、食べてるんだよ。無農薬野菜だからといって絶対に安全だと思っちゃ、大きな間違いだよ。 元もと毒のある野菜が多いっていうことを頭に入れとかなきゃ」 ★ まだまだ、たくさんあるのだが、「目からウロコが落ちた」という程度ではなく「人生観が変わった」と感ずるほど衝撃的だったお話しを少しご紹介した。
●ぼかぁ、わかってたよ
江澤さんは「人を見る目」も確かだった。 数年ほど前のこと、上に書いた「野菜の3つの顔」をきちんと学べる、そして、頭で理解するのではなく口で食べて野菜のことを知る「野菜の専門家」を育てるシステムがスタートした。私は、江澤さんたち何人かと、その学校(?)の講師を務めることになった。 私たち講師は、その学校の趣旨は知ってはいたが、システム(授業料など)に関してはまったく知らされていなかった。半年ほど授業を続けた頃だったろうか、生徒さんの一人から「授業はすごく面白いんですけど、授業料が高くて・・・」という相談を受けた。 調べてみると(それまで、調べてなかったというのはまったく迂闊であったのだが)、確かに授業料がとんでもなく高かった。私たち講師(の何人か)が話し合い、学校の代表者(理事長)に「あまりにも授業料が高い。授業料を半分にするか、授業時間を倍に増やすべきである」と提案した。 理事長は「生徒さんが集まってくるということは、高くはないという証拠です」といってとりつく島もなかった。結局、私たちは講師を辞めることにした。 江澤さんも講師の1人(というよりも、その中心)であったので、辞める決断を理事長に伝える前に、まず江澤さんに報告に行った。 「こういう理由で、私たちは講師を辞めようと思います。ただ、江澤さんには江澤さんのお考えもあると思いますので、お誘いに来たわけではなく、ご報告です」 「あ、そうなの。じゃぼくも辞める」 「エ〜〜〜〜?」 「ぼかぁ、いっとう最初から、彼(理事長)は金のことしか頭にない人間だって、わかってたよ。君たちわかんなかった? 一緒に辞めよう」 江澤さんは知っていたけど、生徒さんたちのためだと思って続けていたのだという。それにしても、江澤さんは講師料を一銭も受け取ってないので、授業料がそんなに高いとは夢にも思ってなかったそうだ。半年もして気づいた私たちはマヌケだったことになる。 でも、こんなことをホームページに書いたら、 「他人の悪口をわざわざ書くなんて、粋じゃないねぇ」って、江戸っ子の江澤さんからはきっと怒られるんだろうな〜。
(平成19年9月29日 佐藤達夫)
|