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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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食料自給率39%じゃ、いけないの?
食生活ジャーナリストの会では、平成20年1月26日(土)に、「食料自給率39%じゃ、いけないの?」と題するシンポジウムを開催した。 昨年、マスコミが「食品偽装表示事件」で大騒ぎをしている中、日本の食料自給率がついに40%をきり、39%にまで低下した。「食べ物がない」という状況は「安心して食べられない」という状況とは比較にならないくらい深刻である。 パネリストは、農林水産省大臣官房参事官の塩川白良さん、東京大学大学院農学生命科学研究所教授の生源寺眞一さん、専業農家の長島勝美さんの3名(コーディネーターは佐藤達夫)。3時間半に及ぶ長いシンポジウムであったので、すべてをお伝えすることはできないが、ホンのさわり部分だけをここにご紹介する。
どう計算しても「40%を切ってしまった」食料自給率
まず、塩川白良さんが、世界の食料事情と日本の食料自給率の現状を、わかりやすい図表を使いながらていねいに説明をした。塩川さんによると、日本の食料自給率(カロリーベース)は、第二次世界大戦後に大きく低下し、昭和40年度には73%であったものが平成18年度には39%にまで低下した。 ただし、昨年度「ついに40%をきった」と話題になったが、これは数字のマジック(?)であり、これまでにもすでに5回ほど40%を下回った年度はあった。しかし、過去の5回は39.6%など「四捨五入をすると40%になる」ために大きな話題にはならなかったのだ。ところが、平成18年度は39.1%と「どう計算しても40%にはならない」ために、農林水産省もシブシブ(?)39%と発表せざるをえなかった。 日本の食料自給率39%というのは、主要先進国の中では最低水準である。ちなみにオーストラリアは237%、カナダは145%、アメリカは128%、フランスは122%、ドイツは84%、イギリスは70%、イタリアは62%だ。 食料自給率が低下した主な原因は、基本的には日本人の食生活が変化したことによる。平成17年と昭和30年を比較すると、この50年間で、米と芋類の消費量は約半分に減り、肉類は約9倍に、乳製品は約8倍に、油脂類は約5倍に増えている。 では、国民が「食べる物を変えさえすれば」食料自給率が元に戻るのかというと、ことはそう簡単ではない。さまざまな理由で、日本の農業自体が衰退している現在、耕作可能な土地をすべて農地にしたとしても、それだけでは食料自給率を100%にすることは不可能だという計算になるそうだ。 しかし、このまま放置していいはずはなく、可能な限りの手段を用いて、日本の食料自給率をできれば50%に、当面は45%にすることを目標にしているのだという。一方では、このところ、食料(トウモロコシなど)をバイオ燃料として利用する需要が高まっているために、日本人が食べ物を充分に確保するのはとてもむずかしい状況になっている。のんびりとしてはいられないはずなのだが、国民はこのことに関してきわめて無関心で、あるアンケートによると「日本の食料自給率が40%を切っている」ことを知っている人は15%にも満たない。 まずは「国民が現実を知る」ことが重要な課題といえよう。
楽観視はできないが悲観的になりすぎる必要はない
生源寺眞一さんは、日本の食料自給率がなぜ上がらないのかを分析・解説した。 生源寺さんは、食料自給率が低下した要因を、年代的に二期に分けてとらえている。まずは、今から40年ほど前〜20年ほど前の時期。この時期は、日本人の食生活が劇的に変化した時期だ。一言でいえば、食事の洋風化によって自給率が低下した時期。 なので、「食料自給率を上げるために食べる物を変えよう」という意見があるが、少しくらい元に戻したくらいでは追いつかないのが現実である。食生活を30年も前に戻すのは容易ではない。主食をすべて米にするくらいではダメで、朝・昼・晩と三食ともに芋が食卓に上るくらいにしないと追いつかない。 次は、20年ほど前から現在に至る時期。この期間では、食事の変化はそれほど大きくはなく、むしろ、日本の農業が衰退したことによって自給率が低下してしまった、と考えるほうがあたっているのだという。農地がなくなり、かつ農業従事者が高齢化したために、日本の国内で食料を生産しようとしてもできないというのが現状である。 このような分析からすると、自給率を向上させるのは至難の業であり、わが国の食料事情はきわめて悲観的だといわざるをえない。しかし、生源寺さんは「それほど悲観的にばかり考える必要はない」という見方も示した。今のままでいいということではけっしてなく、もう少し上げなければいけないということは間違いないが、カロリー計算ではなく生産額の計算で考えると、日本の食料自給率は68%であり、それほど深刻にとらえる必要はないのかもしれない。 食生活が現在のように豊かであることはけっして悪いことではなく、また、栄養的に優れていることは日本人の平均寿命が世界でもトップであることから証明されている。ただし、「食糧として重要な穀物の自給率はもっと高くなければならないだろう」と生源寺さんは指摘した。
家畜の餌を作ってほしい
若き専業農家である長島勝美さんは、畑で野菜を毎日作り続けている立場から「生の声」を披露した。 印象に残った長島さんの発言をいくつか拾ってみた。 ・周囲は年寄りばかり。 長島さんは現在36歳だが、長島さんの周囲にいる農業者の平均年齢は65歳だという。若い人が参入してこないので、このまま10年たてば、平均年齢は75歳になってしまうと危惧している。 ・同僚がいない。 農業従事者の絶対数が少ないので、同業者の友人ができない。子供にも友達がなかなかできない。 ・再生産可能な収入を確保できなければ、農業をやる人はいない。 文化的な生活ができるだけではなくて、たとえば親の面倒を見たり、子供をきちんと育てられるだけの収入が見込めるようでなければ、若い人たちは農業に魅力を感じられない。 ・環境に負担をかけない農法でなければ長続きはしない。 長島さんは堆肥などの有機資材を活用した農業を志向しており、平成19年度環境保全型農業推進コンクールで大賞を受賞した。しかし、これはいわゆる「有機農法」とは異なる。農業技術や知識が充分ではない人が、化学農薬も化学肥料も使わない有機農法で立派な野菜を作るには、大量の有機肥料を投入する必要がある。大量の有機肥料はかえって環境に負担をかけることになるという事実を知るべきだ。 ・趣味で農業をする人がいたずらに市場に参入しないでほしい。 定年退職をした団塊の世代の人たちが農業に従事することが流行のようになっている。趣味で農業をするぶんには構わないのだが、できた農産物を安い価格(プロであれば再生産が不可能なくらいの安価)で、市場に出すことは控えてほしい。団塊の世代の人たちは人数が多いので、市場への影響は少なくない。そのことが原因で、プロの人たちが農業を続けられなくなったときに、彼らがその先ずっと農業生産を支えるかといえば、絶対にそんなことはなく、イヤになれば止めてしまうだろう、趣味なのだから。そうなると、日本の農業は衰退する一方である。 ・家畜の餌を作ってほしい。 もし、団塊の世代が、「日本の農地を守る」「自給率を高める」という意識で農業に携わってくれるのであれば、それはとても嬉しいことで、大歓迎である。でももしそのつもりなら、そういう人たちには家畜の餌にする農産物を作ってもらいたい。それであれば、プロの農家の生活権も侵さず、食料自給率の向上にも貢献する。 ★ いかがだろうか。かなり耳のいたい人もいるのではなかろうか。 今回のシンポジウムでわかったことは、生半可な取り組み方では日本の食料自給率は向上しないということである。食料自給率は、食の安全性とけっして無縁ではない。「食の安全・安心」を本気で考えるのであれば、食料自給率の向上に真剣に取り組まなければならないことがわかるであろう。
(2008/2/27 佐藤達夫)
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