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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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日本牛肉の安全性の国際評価
BSEであれほど大騒ぎをし、今でも少なからぬ税金を全頭検査に使っている割には、日本ではほとんど報道されないニュースがあった。発表されたのは5月末で、いささか旧聞になるかもしれないが、ここで報告しておきたい。 国際獣疫事務局(OIE)という組織がある。活動内容はその名の通りで、世界の家畜の伝染性疾病を管理し、その防疫のために適切な基準などを策定している。BSE騒動でにわかに有名になったが、設立は1924年で、その歴史は古い。2009年5月現在で174カ国が加盟している。 BSE発生以来、OIEでは「BSEリスクステータス」という国際基準を策定している。家畜として牛を飼育している世界中の国を、その管理状態から判断して、以下の3段階に分類しているのだ。 @:無視できるリスク(の国) A:管理されたリスク(の国) B:不明のリスク(の国) 「どのような条件を満たせばどのステータスにランクづけされるのか」という具体的な内容は、このコラムでは書ききれないし、理解するには専門的な知識を必要とするので省略する。興味のある人はコチラを見てほしい。 簡単にいうと、@というのは、BSEのリスク管理がしっかりとできていて、その国のBSEのリスクは無視してもいい、つまり、その国の牛肉は安全であるという意味になる。まだ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、ウルグアイ、シンガポール、フィンランド、スエーデン、アイスランド、ノルウエー、パラグアイ、チリの11カ国しか認定されていない。 Aは、エサの管理ができていて、かつ科学的に有効なBSEの調査(サーベイランスという)がなされているので、牛肉の安全性がきちんと管理できているという意味になる。アメリカ、カナダ、ブラジル、スイスなど、32カ国が認定されている。 Bはそれ以外の国、ということで、Bの国は、牛肉の安全性が不明=危険かもしれない、ということになる。
●BSE全頭検査は牛肉の安全性とは関係がない
冒頭の“ほとんど報道されなかったニュース”というのは「2009年5月27日から開催されていたOIEの会議で、日本の牛肉のBSEステータスがAとして承認された」というものだ。ということは、これまでは、日本のBSEステータスはBつまり日本の牛肉の安全性は不明だったということになる。 日本人から見るとAの中にBSE発生国のイギリスが入っていることのほうが不思議だが、国際的にはそういう評価だったのである。ちなみに、@のBSEのリスクを無視できる国に認定されるためには、現在の状態を今後11年以上保たなければならない。日本が@に昇格するのは、早くても2020年ということになる。 専門家以外の日本人にとっては、これはかなり意外な事実なのではないだろうか。多くの日本人は「日本の牛肉は世界一安全」だと思っている。その根拠は、世界で唯一日本だけが、食用になる牛の“全頭検査”を実施している国だからだ。BSEが発生した当時、日本の農林水産大臣が「日本の牛肉は全頭検査をするので世界一安全です」といった言葉を、みんな忘れてはいない。 しかし、OIEの評価は違っていた。OIEは「全頭検査をするかしないかは、牛肉の安全性とは関係がない」と判断していたのである。一方で、OIEは、「日本の家畜牛の“と畜”方法に問題アリ」として、低い評価を与えていた。 「問題アリ」と指摘されていたと畜方法はピッシングといわれるものだ。日本では2001年11月以来、エサの管理や特定危険部位の除去をほぼ完璧に実施してきたが、それだけでは不十分であり、ピッシングの実態調査が不可欠であった。その後、日本全国でピッシングが中止されたことが確認され、今回のBSEステータスのランクアップが承認された。 ここで確認しておかなければならないことがある。それは、今回のステータスアップ以前には日本の牛肉は安全ではなかったのか、という点だが、それは心配ない。BSEリスクステータスがBであったからといって、日本の牛肉が安全ではなかったということではない。2001年11月以来、日本でもエサの管理と特定危険部位の除去が確実に行なわれていたので、日本の牛肉は安全であった。 ただ、BSEリスクステータスがBである間は、その国の牛肉は国際流通しない。つまり、日本の牛肉は輸出できなかった(というよりも、輸入してくれる国がなかった)のである。これからは日本の牛肉は堂々と(?)輸出できることになる。
●日本では、食用にされる牛にBSEの心配はない
OIEによる日本のBSEステータスランクアップ情報は、輸出を望んでいる業者にとっては重要な変更だが、消費者にとってはあまり大きな意味を持たない。消費者としては、国産牛肉であれ輸入牛肉であれ、食品としての牛肉が「安全であるのかそうでないのか」が重要である。 そういう観点から現在日本で販売されている牛肉を見てみると「限りなく100%に近い確率でBSEの心配はない」といえる。 輸入牛に関していえば、日本は、OIEの認定によるところの@無視できるリスクの国と、A管理されたリスクの国からしか、牛肉を輸入していないので安全といえる。 一方、国産牛肉についていえば、エサの管理と特定危険部位の除去が完全に行なわれていて、かつ、2002年3月以降に生まれた牛にはBSEは1頭も発生していない。 このような状況から考えると、2009年5月現在、日本には種牛(たねうし)等の高齢牛にはBSEに感染した個体はいるかもしれないが、食肉にされる牛には「もうBSE感染牛はない」と考えられる。 だからといって、BSE検査が不要というわけでは、もちろんない。主として「エサの管理がきちんと行なわれているかどうか」「BSE感染牛が日本にはどのくらいの割合で存在しているのか」を調べるためのサーベイランスは必要だ。 問題は、と畜される牛にすべてに対してBSE検査を行なう、いわゆる“全頭検査”である。前述したようにOIEとしては、牛の全頭検査と牛肉の安全性は関係しない、という見解だ。 また、日本の食品安全委員会も「20ヶ月齢未満の牛のBSE検査をしても病原タンパク質は見つからないので、検査をした場合としない場合とで安全性にほとんど差はない」と評価した。これを受けて、国は2005年から全頭検査を取りやめ、2008年8月からは自治体が行なっている全頭検査の費用を肩代わりしないことを決定した。 その結果、現在はすべての自治体でBSE全頭検査を自治体の費用で行なっている。もちろん、その検査をすることによって、牛肉の安全性が高まっているのなら何も問題はない。しかし、国際的にも、また日本の食品安全委員会でも、少なくとも若齢牛のBSE検査で牛肉の安全性が高まることはほとんどない、と明言している。 自治体の予算(税金)をどのように使おうと自治体の(つまり住民の)かってである。しかし、貴重な税金を“効果がない”といわれている検査にいつまでも使い続けていてもいいものだろうか。経済格差が極端に広がり、弱者は、病気になっても治療を受けられず、仕事にも就けず、高齢者は年金だけでは食べていくこともできず、自立して生活ができなくなっても入居できる施設もない、という状況である。 有効な税金の使い道はいくらでもある。少なくとも「大切な税金を全頭検査に使うべきかどうか」という議論を開始すべきではないのか。現在は、BSEの全頭検査に関する議論は、「人の命をお金に換算するのか」という声に押されて、その機会さえ奪われている自治体が多いと聞く。 冷静に対応すべきではないだろうか。
●このコラムは、平成21年6月1日に東京都中央区で開催された食の信頼向上をめざす会主催「第4回メディアとの情報交換会」席上の講演並びに議論を元に佐藤達夫がまとめたものです。
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