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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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日本学術会議に失望
空前の大災害をうけて、平成23年3月18日、日本学術会議(会長:金澤一郎氏)が「緊急集会−−今、われわれができることは何か?」を開催した。東北関東大震災から1週間後の開催は、動きの鈍い大組織の中にあっては、異例のスピードだといえよう。多くの不安や不明点を抱えていた私も、会員外のオブザーバーとして、会議に参加した。参加者は、日本学術会議の会員を中心に190名(主催者発表)。
●現時点では危険性はないが、予断を許さない
集会は2部に分かれており、第1部は「話題提供」として、 @「原子力科学の立場から」を元原子力委員会委員の田中俊一氏が、短い解説を行ない、 A「放射線医学の立場から」を東京大学大学院放射線分子医学教授の宮川清氏が、解説した。 お二人のお話の内容をかいつまんでお伝えする。
@田中俊一氏の報告 現状(3月17日段階)では、福島原発の敷地内を除いて、漏れている放射線量は心配のある量ではない(敷地内は、長時間滞在すると健康被害があるだろう)。現時点でもっとも重要なことは、応急措置ではあるが、発電設備全体を水で冷やすこと。これは緊急を要する。 水で冷やすことに失敗すると、格納容器に収められている発電装置自体、あるいは建屋内に保管してある使用済み燃料等の温度が制御不能になるまで上昇し、きわめて危険な事態に至る。とにかく、水で冷やすことが最重要課題。 冷やすことに成功すれば、とりあえずの危険を避けることができるし、応急措置ではなく、主電源を回復して行なう恒久的な作業(本来しなければならない作業)に着手することができる。その後の話は、まだここで話せる段階ではない。
A宮川清氏の報告 現時点で、原発から20キロメートルあるいは30キロメートル県内で測定されている「マイクロシーベルト」レベルの放射線なら、浴びても健康に影響を与える量ではない。敷地内で作業に従事する関係者が浴びているであろう「ミリシーベルト」のレベルだと、長時間浴びると、将来の健康リスクは高まる可能性もある。 ただしこちらであっても、100ミリシーベルト未満であれば、ただちに(数ヶ月以内程度)ガンなどが発症することはないであろう。100ミリシーベルトを超えると、数年間〜数十年の間(多くのケースでは30年くらい経過後)にガンが発症するリスクが0・5%程度増加すると考えられている。 一方で、現在の日本人が一生の間にガンを発症する確率は40%程度と考えられるので、たとえ放射線を浴びた人であっても、それ以外の原因でガンになる可能性のほうが圧倒的に高いといえる。しかし、原発事故による被ばくは「あってはならない」要因によるので、確率論だけで論じてはならないことは当然である。 また、現在行なわれている一般的なガンの治療法は「完治」と「延命」に分けることができ、そのどちらかの選択を決断せざるを得ない。もちろん、すべてのケースで「完治」が望ましいのだが、原因や発症時期などがさまざまなので、現在の医療ではそれはかなわない。 しかし、今回(福島原発事故)の場合、原因が被ばくという「あってはならない」ことであり、原因に遭遇した時期が明確であるのだから、もし患者が発生したとき、その治療法に「延命」の選択はあり得ない。必ず「完治」しなければならないことを、医療関係者は自覚すべきである。
●「今」できることを示せなかった日本学術会議
第2部は「今、われわれができることは何か?」という自由討論。時間配分からみても、また、金澤会長の言葉からも、こちらが今回の緊急集会の主要テーマであったことは間違いない。さすが学術会議、参加者から矢継ぎ早の発言があった。 さまざまな分野の研究者から、予定時間を延長せざるを得ないくらいの多くの発言があった。たとえば・・・・。
・災害援助をしにくくするような法的規制が多すぎる。緊急事態ということで規制を外すよう、政府に提言すべき。 ・リスク情報がきわめて偏っている。日本学術会議が科学的情報を常に発信できるような広報部門を充実すべき。 ・中国の大地震で成功した「対抗支援方式」を取り入れるよう、政府に申し入れてはどうか。 ・支援には多額の現金が必要。日銀にある現金を市場に放出するよう提言すべき。 ・今こそ、学術会議を上げて「横断的英知」を結集しなければならない。 ・被災地復興のためのグランドデザインを学術会議がリードして、進めなければならない。 ・これらのことを実行するために、日本政府と学術会議とで「懇談会」のような組織を早急に設け、主体的に取り組んでいくべきだ。 等々。
いずれも日本学術会議らしく、真摯で大所高所に立った、素晴らしい意見ばかりだ。ただ、これらのことは「緊急」と銘打った18日の集会で議論すべきことであっただろうか。これらの多くのは、おそらくは近日中に開催されるであろう定期総会で、それこそ「緊急議題」として取り上げて議論すれば間に合うことなのではなかろうか。 自由討論の半ばを過ぎたころに、一般参加者(学生)から「ここで議論していることは、緊急集会で取り上げなければならないことですか? きょうの集会のタイトルに掲げた『今』というのはいつのことですか?」との指摘がなされた。 残念ながら、“日本の頭脳を集めた”はずのこの日の集会でも、彼の質問にまともに答えられる人がいなかった。
私も彼とまったく同じ気持ちを抱いていた。われわれが「今」できることは何か? 私たち一般人は、義援金を送るか、無駄にエネルギーを使わないようにするか、買いだめを控えるか、献血をすることくらいしか、思いつかない。しかし日本学術会議ならその程度のことではなく、科学的に有効で、支援効果も大きく、他の人の行動にも影響を与えることができ、被災者にとってきわめて嬉しい、「今」できることが、いくつも提案されるのではないか、と期待して集会に参加したのだが、その期待は見事に外れた。 日本学術会議は、原子力を有効利用して社会平和を実現することを容認しているはずなので、こういうときこそ、その具体的対策を即座に社会に示せなけらばならないのではなかろうか。 ☆ 以上は私の私的な報告である。この日の集会の「正式報告」の詳細は、日本学術会議のホームページに掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。
(平成23年3月22日 佐藤達夫)
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