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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
今こそ「消費者力」を見せるとき

●食品の安全性が損なわれているわけではない

 地震と津波に襲われて非常事態に陥った福島原発から漏出した放射線の影響が、福島県産、茨城県産、栃木県産、群馬県産の野菜や果物などに影響を及ぼし始めた。平成23年3月23日、菅総理大臣は福島県知事と茨城県知事に対して、野菜類の出荷制限ならびに、摂取制限を指示した。「健康に害のあるレベルではないが、念のため、早めに手を打った」ということらしいので、この指示は国民に安心を与えるため、パニック状態を招かないため、風評被害を防ぐため等々を目的として行なわれたと理解したい。

 しかし、この発表を受けて、首都圏は大きな混乱に陥った。

 私は、18日に開催された日本学術会議の緊急集会に続いて、22日に行なわれた「メディアとの情報交換会−−東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」(食の安全・安心財団食の信頼向上を目指す会共催)を取材した。

 この取材を通じて、福島原発自体は危険をはらんだ状態にあり「予断を許さない」どころではなく、相当に深刻であることを知った。願わくば、最悪の事態に至らず、収束に向かうことを祈るばかりだ。

 一方で、22日の「放射性物質と食品の安全性について」という滝澤行雄氏(秋田大学名誉教授)の講演では、「現時点では、福島原発による食品の放射線汚染は、健康に害を与えるレベルではなく、安全である」ことを理解した。滝澤氏の講演内容は、チェルノブイリやスリーマイル等のデータから導き出されており、信頼できると感じた。

 ちなみに、「放射線による食品汚染の危険性(安全性)はどの程度なのか、どうやって計算すればいいのか」を、わかりやすく解説してくれる人(専門家の話はわかりにくい)がほとんどいなかったのだが、3月23日になって、科学ジャーナリストの松永和紀さんが自身のブログで見事に解決してくれた。このことに関して「胸のつかえを取りたい」人は、ぜひ一読すべき。

●今こそ福島県産や茨城県産の農産物を支えるとき

 さて、以上を前提にして、今、消費者として何をすべきか、を考えてみた。

 すでに報道されているように、首都圏ではまず野菜離れが始まった。福島県産や茨城県産であろうがなかろうが、買い控える人が増えている。また、葉物であろうがなかろうが、野菜を食べ控える人が増えている。

 例によって、スーパーマーケットは「消費者が買わないから」という理由で、仕入れる量を減らした。とりわけ、福島県産と茨城県産は“出入り禁止”状態である。両県産の野菜はすべて取り扱わないことにしたという外食チェーン店も出現している。こうなると「風評被害」ではなく「風評差別」である。

 これらの“規制“が生産者にどれほど大きな打撃を与えているかは、想像に難くない。返品や出荷停止された農畜産物はすべて廃棄処分される。補償すればよい、というものではない。消費者は、今こそ「生産者を守る」という意思表示をすべきではないか。

 私たち消費者は、さまざまな形で意思表示をすることができるが、最もわかりやすいのは「買う」行為である。

 「出荷制限」に指定された農産物は、流通されないので店頭に並ぶことはなく、消費者が購入することはできない。しかし、福島県産や茨城県産で「出荷制限」あるいは「摂取制限」されてない農産物もある。消費者はこれらを積極的に購入するという意思表示を示すべきではないか。

 また、日ごろから「日本の生産者を守る」と公言している消費者の組織(生活協同組合なども含めて)は、独自の検査で「健康の問題のない」範囲の農産物があったら、たとえ出荷制限対象としてあげられている品目であったとしても、それを購入することによって生産者を支えることができないものだろうか(たとえば、同じく「福島県産ほうれん草」であっても、検出される放射線量が基準値を超えるものと超えないものがあるはずだ)。

 ちなみに、私の仕事仲間(野菜ジャーナリスト:篠原久仁子さん)が、茨城県産野菜の安全性について書いてある。興味のある人はご覧いただきたい。

 報道によると、今回の事態を受けて、中国産の冷凍ほうれん草の消費量が増えているのだという。中国産冷凍ほうれん草から「健康に被害を与えないが基準値を超える農薬」が検出されたときには、あれほど「中国産ほうれん草は危険だ」「これを機に国内の農業を支えることを真剣に考える立場からも、中国産野菜を食べることは控えよう」と大騒ぎしていたのは、ついこの間の話ではなかったか。

 私は、あのとき(中国産冷凍ほうれん草事件当時)は「危険ではない食品のほうが多いので、感情的に毛嫌いすべきではなく、冷静に判断して中国産冷凍ほうれん草を食べるべきだ」と発言したが、今回は逆のことを言いたい。

 安易に輸入冷凍野菜にハシルのではなく、今こそ壊滅的な打撃を受けている福島産及び茨城産の農産物を買い支えよう! それこそが真の「消費者力」だと考える。

  
(平成23年3月29日 佐藤達夫)