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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
風評被害について考える−その1
■「故ある不買行動」は風評被害ではない

 連日、報道されているように、福島県産茨城県産の農産物・畜産物・水産物が売れずに、当事者は致命的な打撃を被っている。いわゆる“風評被害”だ。あまりにも不条理な話で、被害者に対しては、さまざまな形での損害賠償と支援がなされるべきである。
 それはそれとして、ここで、風評被害について改めて考えてみたい。
 まずは風評被害そのものについて。ある事件(や事故)と、それにまつわる報道等が原因で商品(サービス)が売れなくなったとしても、そのすべてが風評被害なのではない。厳密な(正確な)定義ではないが、たとえば食品に関していえば、「法律に違反しているわけではなく」「安全性に問題が見当たらず」「当事者であるわけではない」にもかかわらず商品が売れなくなる場合に限って、それを風評被害というのではなかろうか。
 2007年に、三重県の老舗の菓子メーカーが、目玉商品である餅菓子の製造日を偽装した疑いで保健所の調査を受けた。商品の安全性には問題がなかったのだが、食品衛生法違反で摘発されて大きな話題となった。その結果、その餅菓子だけではなく、すべての商品の売り上げが激減し、当然のことながら、この企業は大打撃を受けた。
 これは、風評被害だろうか? 企業が法律に違反をしたのだから、たとえその商品が安全であるのにもかかわらず売れなくなったとしても、また、不買行動が他の商品にまで広がったとしても、これを風評被害とはいわない。
 また、最近の焼き肉チェーン店での生肉食中毒事件はどうだろう。チェーン店の中で、食中毒を起こしてない店まで閉店を余儀なくされ、経営者が泣きながら風評被害を臭わしたそうだが、これはもちろん風評被害ではない。
 このチェーン店では、どの店でも安全ではないユッケを提供していることが強く推測されるので(たまたま、まだ事件が発生していないだけであって)、消費者がそれ(安全ではない食品)を避けるのは当然の行為であり、そのことによって生ずる被害は風評被害などではない。

■放射性物質汚染食品の安全性はまだ不明(?)

 次には、放射線汚染食品の安全性の問題。
 当事者ではなく・法律違反をしておらず・安全であるにもかかわらず、食品が売れなくなってしまうのが風評被害だと書いたが、放射性汚染の場合、最も肝心な「安全であるかどうか」が明らかになっているとはいいがたい。
 先ほど「安全ではない食品を避けることは、消費者にとって当然の行為であり風評被害ではない」と書いたが、このコラムでも何度か触れてあるし、拙著『食べモノの道理』にも書いてあるが、食品で100%安全である物は存在しない。とすると、どの食品にどんな不買行動が起きても、風評被害ではないということになってしまう。それはオカシイ。
 必然的に「安全の境界線」が必要だ。私は、その境界線は「一生涯食べ続けても健康被害が出ないと推測される量」だと考えている。つまりADI(一日許容摂取量)といわれている考え方(量)である。100%安全ではないが、これを超えない限り許容して食べてもいい、と理解している(そうしないと食べる物がなくなり、健康を害する)。
 厚生労働省をはじめとして、世界中の食品安全は、このADIを基準にしているはずだ。農薬の使い方や添加物の使用量などもこのADIを元に定められている。
 ところが放射性物質にはADIが定められてはいない。放射性物質は、特殊な例を除いて、ある目的を持って食品に対して使われてるのではなく、不慮の事故によって食品に加わってしまった物だからだ。つまり、低ければ低いほど好ましい存在、なのである。そのように主張する人たちも大勢いる。
 ただし、放射性物質といえども、「安全の基準値」をゼロにするわけにはいかない。地球上には自然の状態で放射性物質が存在しているからだ。では、どの程度なら「安全」といえるのだろうか。わが国では、その数値が今まで決まっていなかった。
 今回の福島原発の事故を受けて、あわてて、食品安全委員会の意見を聞いて「基準値」を作成した。あわてて作成したので「暫定基準値」となっている。食品安全委員会も厚生労働省も、将来的には「暫定」を取り除いて正式な基準値にする意向だが、そう簡単にはできそうもないといっている。
 それもそのはず、放射性汚染物質がヒトに与える影響に関しては、あまりにもデータが少ないからだ(あってはならないことなので、データが少ないのは当然のことなのだが)。科学者たちが持っているデータのほとんどが、ヒロシマとナガサキとスリーマイルとチェルノブイリで得られた物だといわれている。
 この限られたデータを元にして、基準値を決めなければならない。農薬や添加物などと比較して、現時点では、あまりにもデータが少ない。かといって、基準値を定めないわけにはいかないし、データが少ないからといって「ゼロ」にするわけにはいかない(くどいようだが「ゼロ」にすると、食べる物がなくなる)。
 このように、放射性物質汚染食品に関しては、不確定要素が多いために、風評被害が起こりやすい素地が充分にあることを、知っておかなくてはならないだろう。
 この「風評被害が起こりやすい素地」について、さらに考えたいのだが、長くなってしまったので、それは次回に述べることにする。


(平成23年5月27日 佐藤達夫)