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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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風評被害について考える−その2
5月27日に更新した【コラム】では、風評被害とは何かについて考えてみた。今回はその続きなので、これを初めてご覧になるかたはまずコチラからお読みいただきたい。今回は、「では、なぜ風評被害はこんなに簡単に、しかもものすごい勢いで広がるのか」について考えてみたい。風評にもいろいろあるが、ここで扱うのは、もちろん、食品に関する風評被害である。
■地震、津波、原発、風評被害の四重苦
福島原発からの放射性物質が、福島県はもちろん、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県等、東北地方や関東地方にまで飛散し、農産物や畜産物を、さらには海水を経由して水産物までを汚染している。 前回も触れたが、放射性物質にさらされ、しかも、暫定とはいえ国が定めた規制値を超えて汚染された食品が、市場から排除されたり、消費者が買わなかったりするのは当然である。これによる被害も甚大ではあるのだが、これは風評被害ではない。このことに関して流通業者や消費者を責めるのは理不尽だ。東京電力や国が責任を持って保障するしかない。 問題(風評被害)は、汚染されてはいない食品、あるいは放射線を受けてはいても厚生労働省が定めた「暫定基準値」未満に収まっている食品までもが、福島県産であるとか茨城県であるとかいう理由で、売れなかったり、店頭に並ばなかったりしている現状である。これがまさしく風評被害だ。
原発の地元・福島県の関係者が「地震、津波、原発に加えて風評被害は、まさに四重苦だ」と訴えるほど、風評による被害はすさましい事態に至っている。自治体やJAは、風評による被害分までをも含めて、東京電力や国による保障を求めている。何の落ち度もなく、いきなり生活手段を奪われた農業者・畜産業者・漁業者に対しては、生活の保障だけではなく、損害賠償をも含めた保障がなされなければならないのも当然だ。
■日本の消費者はそんなに愚かなのか!
さて、今回のテーマである「風評被害の原因」である。 上で考察したようなことが風評被害だとすると、消費者は、単に「福島原発に近いところでとれた」という理由だけで、安全である食品の不買行動に走ったことになる。その前に「店頭に並ばないので、消費者が買いたくても買えないのだ」という声に対しては、当事者である流通業者は「販売したくても消費者のかたがお買い求めにならないので、店頭に並べることができない」と、責任を消費者に押しつける。 つまりは「風評被害の原因は、“安全な食品”であっても、ウワサを聞くだけでいっさい買わなくなる愚かな消費者にある」というわけだ。
日本の消費者はそんなに愚かだろうか? 私は、3月29日の【コラム】で「今こそ福島県産や茨城県産の農産物を購入すべきだ」と書いたが、私がそんなエラソウナことをいわなくても、すでにそういう動きが出ていたことを、あとで知った。日本の消費者は、冷静で、思慮深く、気持ちの温かな人が多いと感ずる。 もちろん、冷静ではなく、非科学的で、衝動的に行動する消費者もいるに違いない。ただし、そんな愚かな人間は(おそらくは一定の割合で)どこにでもいるはずだ。生産者にも流通業者にも、サラリーマンにもOLにもフリーターにも、政治家にも役人にも、マスコミ関係者にも、どこにでもいるに違いない。消費者だけがとりわけ愚かな行動をするわけではない。 とはいえ、今回の風評被害は尋常ではない。生産者の中から自死をする人が出たほど、重大な被害が発生している。“一部の消費者”だけが愚かな行動に出たというレベルではない。多くの消費者が、正常時には考えられないほどの、尋常ではない消費行動をしたということになる。 それはなぜなのだろうか?
■生産者サイドは、一方的に被害者なの?
日本の消費者は常日頃から「安全なもの」を「安全ではない」と思いこまされ続けているからではないか、というのが、私の推測だ。そして、その情報の多くが生産者サイドから発信されている。 2002年に中国産冷凍ほうれん草から、残留基準値を超える農薬が検出された。このとき、冷凍ほうれん草だけではなく、「中国産野菜はすべて農薬まみれなので買わないほうがいい」という情報が巷に溢れた。中国産野菜は市場から追放され、関係者は大打撃を被った。それだけではなく、冷凍野菜業界全体の売り上げも激減した。 このとき、関係者は「風評被害だ」と声を上げたのだが、報われることはなかった。それどころか、日本の生産者(組織)の中には、この機を利用して「安全な国産野菜を買いましょう!キャンペーン」を大々的に展開した人が少なくなかった。彼らはまさに「安全な野菜(中国産野菜のほとんど)を、安全ではないと決めつける」ことによって、自分たちの利益を向上させたのだ。キャンペーンなので、当然のことながら、マスコミも手を貸した。 そのキャンペーンによって、消費者は中国産野菜を購入することを止めたし、店頭には中国産野菜が並ばなくなった。これが風評被害でなくて、何だろう?この種の例には枚挙にいとまがない。2008年の中国製冷凍餃子事件のときも同様のことが起こった。
食品添加物についても、似たような構造が見られる。多くの食品会社は「無添加」「無着色」「保存料不使用」を大げさに謳いあげる。まるで、添加物を使った食品のすべてが危険なものででもあるかのように・・・。日本の法律を守って使用された添加物は、食べた人の健康を害することはない。つまりそれは安全な食品である。 食品メーカの一部や、消費者組織(生協など)の一部は、「安全な食品を安全ではないと決めつける」ことによって、利益を上げている。日本の消費者はそのような誤った情報を洪水のごとくに浴びせ続けられている。日本には“安全ではない食品”が溢れている、と消費者は思いこまされている。
これが、風評被害がいとも簡単に広がる素地ではなかろうか。日本の消費者が「安全な食品を安全ではない」と勘違いしやすいのは、消費者に責任があるのではなく、責任の根本は食品を提供する側にある、と私は考えている。生産者サイドの人たちは、一方的に被害者なのではない。食品を提供する業界の人間が、このことを冷静に反省し、対応策を真剣に考えなければ、今回のような風評被害は、けっしてなくならない。 もちろん、情報を提供する報道者にも、同様の反省を促したい。
(平成23年6月1日 佐藤達夫)
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