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■「近ごろ気になること」を書きとめました
「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
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子供ビール
羽田空港第2ターミナルのソバ屋に「子供ビール」なる物が置いてある。先日、ソバを食べていたら、隣の席に2歳くらいの幼児とそのお父さん・お母さん、さらにおじいさん(たぶん私と同年代)・おばあさんの5人連れが座った。 大人4人が食べ物とビンビールを注文した。すると接客係の女性が「お子様に子供ビールはいかがですか?」と勧めた。私は、箸を止めて、思わずそちらを見た。まさか頼まないだろうと思っていたら、おじいさんが「じゃ、お願いします」と言って注文した。 もちろんアルコール成分を含まない、甘い炭酸飲料だろう。いま流行り(?)のアルコールフリーの発泡酒ではない。ちゃんと、小さな茶色のビンに入っている。コップに注ぐと少し泡立つ。 大人はビールをコップに注いで、「乾杯!」と言って子供とグラスを合わせた。一見、幸せそうな家族風景であり、他人がとやかくいう筋合いではないかもしれない。
■子供の飲酒習慣を助長するな
しかしこれは、健康上からはけっして好ましい習慣とはいえない。アルコールそのものが、直接、健康を害するかどうかはさておき、飲酒習慣は、糖尿病や高血圧症や脂質異常症や肝炎や痛風などの生活習慣病、そして致命症ともいえる虚血性心疾患に悪影響を及ぼすことは、ほぼ明らかだ。 幼児を、そんな飲酒習慣にさらすべきではない。できれば、子供の見ているところではお酒を飲まないくらいの節度が必要だと考える。子供は大人の真似をしたがるが、ひと言「ダメ!」と教えるべきだ。 食育の基本の1つである。しかもかなり重要な「基本」である。 そのように育てても、多くの大人がそうであったように、成人すれば飲酒習慣は身につく。わざわざ幼児・児童の身につけさせることではない。 「自分の限界を知らないと、急性アルコール中毒になるから、子供のうちから多少の飲酒はしておくほうがいい」という人もあるようだが、そんな必要はない。二十歳になってからの飲酒でも、自分の限界を知ることは、容易にできる。急性アルコール中毒を、子供の頃からの飲酒習慣で防ごうなどというのは、カン違いも甚だしい。 昔「ハッカタバコ」というものがあった(今でも、似たような物があるらしい)。タバコの形状をしたお菓子で、ハッカの味がした。私も子供のころに、大人の真似をしてハッカタバコをスパスパ吸い(舐め?)、大人の気分を味わっていた。 そのせいかどうかはわからないが、私は18歳でタバコを吸い始めた。幸い、32歳で喫煙習慣とは縁が切れたが、無駄なことをした14年間であったと思う。あれも「あってはならない食品」だった。 生活習慣病の予防には「正しい生活習慣」こそが肝要である。子供の喫煙習慣や飲酒習慣を助長すべきではない。
■飲酒は胎児・乳児に悪影響を与える
こんな偉そうなことをいう私もお酒は好きでよく飲む(弱いのだが)。“お酒の良さ”などは、ここで私が述べるまでもなく、みなさんがいくつも列挙することができるだろう。 私は「酒を飲むな」といっているのではない。「もし、健康のことを考えるのであれば、お酒は飲まないほうがいい」といっているだけだ。 先ほど「アルコールそのものが、直接、健康を害するかどうかはさておき」と書いたが、このことについて少し考えてみたい。 みなさんはアルコール飲料にはかならず次の文言が書かれていることをご存じだろうか。 −−妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。 −− よく読むと恐ろしい内容だ。「飲酒は胎児や乳児に悪影響を及ぼす」のだから。でも、多くの人はこれを読んでもお酒を飲む。なぜ? 男性ならば「妊娠や授乳とは無縁」だから? 女性であっても「今は妊娠も授乳もしてないし、これからもその可能性がない」から? では、あえて挑発的に、上の文言の「飲酒」という言葉を「遺伝子組み換え食品の摂取」と入れ替えてみよう。 −−妊娠中や授乳期の遺伝子組み換え食品の摂取は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。−− このように表記されることが法律で義務づけられたらどうだろう? 男性は「妊娠や授乳と無縁だから」といって遺伝子組み換え食品を摂取するだろうか。女性は「今は妊娠も授乳もしてないし、これからもその可能性がない」からといって遺伝子組み換え食品を食べるだろうか。 おそらくそうはならないに違いない。それほど危険な物などは“食べる・食べない”以前の問題として、「食品として流通することさえあってはならない」と、排斥運動が起きるだろう(今も起きているが)。 アルコール飲料との違いが、私にはよくわからない。少なくとも、幼児の飲酒習慣を促進するような「飲食物」など、なくてもいいのではなかろうか。 話を冒頭の場面に戻すと、5人家族の幼児は「子供ビール」を喜んでいる様子には見えなかった。彼(幼児)の口には合わなかったようだ。それがせめてもの救いだった。
(平成24年5月3日 佐藤達夫)
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