新刊紹介『お母さんのための「食の安全」教室』 私が代表幹事を務める食生活ジャーナリストの会の会員で、科学ライターの松永和紀氏の新刊。月刊誌『栄養と料理』に連載していた記事を、大幅に加筆・修正した力作。書名には「お母さんのための」としてあるが、もちろん、お母さんだけにではなく、お父さんにもお姉さんにもお兄さんにも、また、食品企業関係者にも、報道関係者にも、ぜひとも読んでほしい本だ。 構成は以下の通り。第1章 食品と放射性物質第2章 生物から体を守る第3章 化学物質から体を守る第4章 思い込みの怖さを知る第5章 リスクの考え方を知る 生肉、BSE、アレルギー、農薬、食品添加物、中国産食品、遺伝子組み換え食品、健康食品等々・・・・いま私たちの身の回りにある「食の安全を脅かす(と多くの人が感じている)もの」の、ほとんどすべてともいえる食品や現象について、明快で科学的な解説がなされている。 実は、このテの本は、書店へ行けば“山”と積まれている(私も書いてある。もう書店には積まれてはないが・・・)。しかしそのほとんどが(もちろん私の本は除いて)、いたずらに恐怖を煽るものか、逆に、企業サイドに依った安全神話を垂れ流すものかのいずれかに分類される。どちらを読んでも、正しい認識を得られることはなく、「気に入るか・気に入らないか」が判明するにすぎない。 松永氏のこの本の特徴の1つは、科学的なデータに基づいて、何がどのくらい怖いのか、どこまでを安全と考えればいいのか、を示してくれる点。もう一つの特徴は(私はこちらを高く評価するが)、自分の人生の中で、これらの食品や事象とどのように付きあっていけばいいのか、というヒントを与えてくれる点だ。 言うまでもなく、私たちは「健康を目的」として生きているわけではない。それぞれに希望や目標や愛情を(あるいは野心や快楽追求等々を・・・)抱いて生きている。人生に於いては健康状態よりもそれらが優先する。ただ、一般的には、健康を害するとこれらの目的を達成できなくなるので、健康をも重要視するにすぎない。 食の安全も、この範疇から出ることはない。つまり「食のリスクを避ければ避けるほど幸せな人生が送れる」わけではない。 松永氏が、執筆にあたって、このことを意識したかどうかは知るよしもないが、読み進めるうちに、このことに気づかされる。「食の安全情報」あるいは「食の危険情報」とどのように付き合いながら自分の人生を(健康で幸せな人生を)全うすればいいのか、を考えさせられる。 こんなに大仰に立ち向かわずとも(笑)、少なくとも第1章の放射性物質だけにでも目を通すべきだ。放射性を浴びた食品は自分にどの程度の影響を与えるのか、妊婦や子どもは何をどのくらい食べれば(避ければ)いいのか、放射性食品に対する日本の基準値は正当な値なのかどうか、風評被害はなぜ発生するのか、などが理解できるだろう。 女子栄養大学出版部発行・本体価格1500円。第1章を読むだけでも、充分に本代の元はとれる。(平成25年1月10日 佐藤達夫) バックナンバーはこちら