適食情報タイトル 適食情報TOPへ
コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
シリアルは滋賀県の長寿に貢献できるのか?!



知り合いのジャーナリストから「男性の平均寿命1位の滋賀県とK食品会社(カエルのような名前のシリアル会社)が組んだ珍しいプロジェクトに関するセミナーがあり、“腸寿”食に関する特別講演もある」という連絡があったので、参加した。
何を隠そう、滋賀県は筆者が高校時代を過ごした土地でもあるので、懐かしさもあって出かけたという側面も否めない。

■栄養素バランスに優れているシリアル

シリアル(昔はコーンフレークといっていた)は、栄養素バランスの優れた加工食品だ。コーンフレークといっていた時代の物は、甘さが強く、どちらかといえば子ども向けのおやつのような存在であった。
しかし、近年のシリアルは、とりわけ牛乳といっしょに食べると、かなり理想に近いくらいの栄養素バランスが期待でき、1回の食事としての役割を充分にはたす。

しかも、シリアルを袋から出して器に移し、牛乳をかけるだけ、という手軽さ(器やスプーンがなければ、シリアルと牛乳を交互に飲食すればいい)。
慌ただしく出かけなければならないビジネスパーソンの朝食として、調理が苦手な(というよりもほとんど調理できない)男性の食事として、何よりも「食」が細くなり栄養素不足が懸念される高齢者に、とても適している食べ物だ。
咀嚼力が低下した高齢者には、牛乳にしばらく浸しておくと食べやすくなるという利点もある。

ただし「食」というのは保守的なものなので、シリアル(に限らずどんな食べ物でもそうなのだが)は食べ慣れていない人が、ある時期から急に「食べよう」としてもナカナカ喉を通らない。
若くて健康なうちから、週に何度かは「朝食をシリアルにする」ことをお薦めする。

■セミナーかと思いきや、まるで撮影会

「優れた加工食品会社と長寿県のコラボ」なので、期待は高まる。
滋賀県の長寿の要因を解明し、そこにシリアルを加えるとどういう効果が期待できるのか、またそれは多くの日本人の「食」にどのような影響を与え、私たちの健康と長寿にどのくらい貢献するのか等々、知りたいことは山ほどある。

しかし残念ながら今回の“セミナー”では、これに関する情報提供はほとんどなかった。
約90分間のうち、「腸寿」に関する講義は約20分のみ。
あとの時間は、社長の挨拶、支援協力者の挨拶、今回のプロジェクトとは直接的な関係のないシリアルの健康効果等の説明に費やされた。
逆に、何よりも優先された(と私が感じた)のは、社長やドクターやマスコットキャラクターとのフォトセッションであった。
思わず心の中で「撮影会かい!」と突っ込んだ。

このようなセミナーに何度も出席しているが、講演時間が約60分・質疑応答が約30分・主催者挨拶等が約30分というケースが多い(全体が90分であっても、この割合で行なわれる)。

イベント開催時間の3分の2以上を宣伝活動に費やすセミナーは珍しい。
そう思ってよく見ると、今回のイベントは「セミナー」ではなく「腸寿サポートプロジェクト発表会」であった(つまり、私の勘違いだった)。
であれば、社長が会社のPRをし、支援者がプロジェクトの意義をPRし、滋賀県知事(なんと県知事が出席していた!ヒマなのか?!)が県のPRをするのは仕方ないだろう(あまり興味はわかないが)。

私がチョット驚いたのは、「健康長寿に大切な腸の健康と食物繊維の関係」というNドクターの講演だ。
私が最も聞きたかった講演であり、中身はそれなりに面白かったのだが、あろうことかN氏は講演の途中で自分と自分の研究を、K社と滋賀県にPRをし始めたのだ。
「こういうことをしてるので、今後もよろしく」と。

そのせいもあるのだろう、全体の進行がオシテしまい(報道関係者を集めた機会では最も重要だと、私が考える)質疑応答の時間がなくなってしまった。
あきれた。

■「発酵食品と長寿の関係」は確かではない

よく聞くと、今回、K社と滋賀県がコラボしたのは、滋賀県の長寿とはあまり関係がなさそうだ。
K社の本社がミネソタ州(USA)にあり、滋賀県とは姉妹県・州にある関係で話がまとまったようだ。

ちなみに、プロジェクト発表会のあとに「近江長寿食」なるものの試食会が開催された。
私は試食会には参加しなかったのだが、プロジェクト会場で披露されたのは「オールブランと鮒寿司のガレット風」。
長寿の要因の1つである発酵食品(鮒寿司)と、食物繊維が豊富なオールブランとのコラボ。
これは、健康的には悪くはなさそう・・・・。

ただ、発酵食品(たとえば鮒寿司)が滋賀県男性の長寿と関係があるとは考えられないし、根拠もない(あるのであれば発表してほしかった)。
そもそも、鮒寿司はおいしいけれど、とてつもなく癖があるし(このあたりは「好き嫌い」の問題だが)生産量がきわめて少なく、高価なので、たとえ滋賀県人であっても、昨今では鮒寿司を食べたことのある人は少なかろう。
滋賀県男性の平均寿命に寄与している食べ物であるとは考えられない。

批判的なことばかり書いてきたが、K社と滋賀県による「腸寿サポートプログラム」の中身は、もちろん、ここに書いたことだけではない。
詳細はネットで見られるので、興味のある人はご覧いただきたい【※1】。
また、7月7日からは期間限定で、滋賀県のアンテナショップ「ここ滋賀」で、「近江腸寿定食」を食べることができる【※2】。
こちらも興味のある人はチャレンジしてみてはいかがだろう。

(2018年7月1日 佐藤達夫)


【※1】
http://www.pref.shiga.lg.jp/b/kokusai/e-shinbun/files/20180627-1.pdf
【※2】
https://cocoshiga.jp/