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コラム

■「近ごろ気になること」を書きとめました

「食生活」や「健康・医療」に関して、「近ごろ気になったこと」を書きとめました。「健康情報」ページとは異なり、執筆者(最下段に示す)の意見が反映されています。
期限表示から製造日表示へと戻しませんか?

セブン−イレブン・ジャパンは、この秋から、消費期限切れが近い弁当などの食品を、実質的に値引きする(ポイント還元などの方法で)ことを発表した【※】。食品ロスを減らすことなどを理由の1つにあげている。ここで、期限表示そのものについてもう一度考えてみたい。

■多くの消費者が「期限表示」に反対していた

かつて(1995年3月まで)は、包装された加工食品に「期限表示の義務」はなかった。それまでは「製造年月日表示」が義務づけられていた。食品衛生法が改正されて、1995年4月1日から製造年月日表示を止めて期限表示(賞味期限や消費期限)が義務づけられることになった(牛乳・乳製品には乳等省令によって「品質保持期限」表示が義務づけられていた)。

「製造日表示」が「期限表示」に変更になる際には、多くの消費者(団体)が強く懸念を表明し、反対運動が起こった。私も「変更の必要はない」と考えていた1人だった。

当時、食品衛生法を管轄する厚生労働省が提示していた「製造日表示を止めて期限表示に変更する理由」は、大きく次の4点であったと記憶している(あくまでも著者の記憶)。
1:食品製造の技術革新によって「日持ち」が長くなり、これまでの常識が通用しなくなっている。
2:消費者の知識や経験が低下し、製造日を見たり食してみたりして「食べられるかどうか」の判断をできる人が少なくなっている(ので、「いつまで食べられる」かの目安を表示する必要がある)。
3:製造日が書いてあると、消費者が買い物の歳に「新しい物」を選択するので食品ロス(当時この言葉を使っていたかどうかは不明だが)が増える。
4:製造日を一日でも新しくするために深夜労働が増え(0時を過ぎてから刻印するために)、食品関連労働環境が改善しない。
5:コーデックス等の国際的基準に合わせる。
(順不同)

■変更の最大の理由は「外圧」ではなかったか?

立派な理由がいくつもあるにもかかわらず、筆者が「賛成できない」と考えたのは次のような懸念があったからだ。
・製造日を表示してあると消費者は「新しい物を棚の奥の方から取り出す」ので食品ロスが増えるというが、それは期限表示になっても同じことになるだろうから、食品ロスの改善にはつながらないのではないか。
・製造日表示から期限表示に変わると、局面的には労働改善になるかも知れないが、総合的にみてそのことが食品関連労働環境の改善につながるとは考えられない。
・コーデックス基準に合わせる必要は否定しないが、実際は「外圧に屈する」という要素が大きいのではないか。外国で生産された物は輸送に時間がかかるため、同様の国産食品に比べて、必然的に製造日が古くなる。このハンデを解消するために「製造日表示から期限表示に変更してほしい」という強い要請が、海外(主としてUSA)からあった(期限表示であれば、日付が「明らかなハンデ」とはならない)。
・製造日は(虚偽表示をしさえしなければ)1つであり、紛れがない。しかし、期限表示のほうは(虚偽をしなくても)1つではないので紛れが生ずる。食品製造の技術革新の程度は事業者ごとに異なるので、同様の食品でも複数の日付が設定されることになる。これは消費者には理解しにくいし、不信にもつながる。

■ムダを減らす工夫が逆に食品ロスを増やしたのでは?

筆者は「地産地消礼賛論者」ではないが、前項のような理由から、製造日表示から期限表示への変更には賛成しなかった。

そして、ここへきて「さらなる問題」が生じたことになる。それは期限表示をしたことによる食品ロスの増大である。

製造日表示をやめて期限表示に切り替えた理由の1つに、消費者が「製造日を見たり自分の舌で確かめたりすること」によって「その食品がまだ食べられるかどうか」を判断できなくなった、ことがあげられた。しかし、ここに大きな矛盾が潜んでいたことに、多くの人が気づかなかった。それは、そのことを自分で判断できない人(消費者)は、「期限表示」を過ぎた食品を食べることなどはけっしてしない、という現実だ。

いくら「賞味期限と消費期限は違います。消費期限は過ぎたら食べないほうがいい。でも、賞味期限のほうは味覚が低下しているかもしれないけど、食べられないわけではありません」などと口を酸っぱくして言っても、消費者には正確に伝わらない。期限が切れているものは食べないし、期限が切れそうになっている物は買わない、というのが多くの消費者の正直な反応である。

もし、製造日表示であったなら、どうであろうか? 推測でしかないが、「期限が過ぎた」あるいは「期限が近づいた」からという理由で捨てたり買わなかったりするという現象は起きないだろう(そもそも期限が書いてないのだから)。製造日の新しいものを選ぶという行為はなくならないだろうが、少なくとも、期限が近づいた食品を小売店がメーカーに戻す「量」は減るだろう(期限が書いてないのだから)。

冒頭の話に戻るが、「食品ロスを減らすため」などというもっともらしい理由をつけて、期限切れの食品を(実質上)値下げするくらいなら、いっそのこと(非現実的な提案とは知りつつ言うが)期限表示を製造日表示に戻すほうがいいのではなかろうか!? 少なくとも検討には値するだろう。


(2019年5月21日 佐藤達夫)

【※】
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190517/k10011919551000.html