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健康情報
このページは、健康や食生活に関連するテーマで開催されたシンポジウム、記者発表会、学会等のレポートです。科学的で信頼でき、かつ最新の情報を掲載します。なるべく取材者の主観を入れず、できるだけ忠実にレポートすることを心がけてあります。
今の「食育」に欠けているもの

 次から次へと不安材料が噴出する放射性汚染食品の影に隠れて(?)ほとんど報道されなくなった「生肉食中毒」だが、複数の死者を出しているという意味では、こちらも(こちらこそ?)注意深く監視しなければならない事件である。
 平成23年6月20日、東京都中央区で、食の信頼向上をめざす会(会長・唐木英明)主催の、第12回メディアとの情報交換会「ユッケから考える食中毒−食育の重要性」が開催された。メインの講演は、渦中の人である厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課課長・加地祥文氏の「食中毒の現状と対策について」。こちらは他のサイトでも報告があるようなので、『適食情報』では、私が個人的に興味を抱いた4人目の演者、生活協同組合コープこうべ参与・伊藤潤子氏の「牛肉生食による食中毒 食育の振り返り」を紹介する。

■肉の生食に対してあまりにも無防備・無警戒

 焼き肉チェーン店でユッケを食べた子どもが死亡したのが4月の末。伊藤氏は、その約半月後に、女子大学生(1年生)約200人にアンケート調査を行なった。その結果、焼き肉屋へ行ったことのある人は約8割で、これは想定内の回答。伊藤氏が驚いたのは、そのうち「ユッケを食べたことのある人」が約8割もあったことだという。女子大学生の約3分の2が、生の牛肉を食べている計算になる。

 アンケートの対象は入学間もない1年生で、実施をしたのは平成23年5月だから、彼女たちが焼き肉を食べに行ったのは(おそらくは)学生同士でではなく、家族と一緒だっただろうと、伊藤氏は推測する。つまり、家族の中で「肉の生食の危険性が共有されてない」ことになる。多くの家庭では「肉を生で食べることにリスクがある」ということを、親が子に伝えてはないということだ。それ以前に、親がそのことを知らないという可能性も高い。

 また、
食育基本法が施行されたのが平成17年で、国をあげての「食育」活動はその翌年から始まっている。彼女たちは、中学に入学したときから数年間「食育」の洗礼(?)を受けているはずである。にもかかわらず、肉の生食に対するあまりの無防備さ、警戒感のなさに、伊藤氏は驚いたという。同時に、自らも長年関わってきたこの国の「食育」の内容に、改めて大きな疑問を抱くことになった。

■とにかく何かやらなければ・・・

 平成17年に食育基本法が制定され、その中で、知育・体育・徳育と同等に必要な概念として食育が位置づけられた。その背景には、生活習慣病が増加したこと、そして、家庭内での指導力が低下していることが指摘されていた。
 そのため「国民一人ひとりが自分の食を選びとっていく力を身につける」という基本理念に異論を挟む余地はなかった。ただし、子どもに対する食教育を法律で定めるということに関しては、施行当時からその是非が問われていた。法律で定めたことにより、食育活動は省庁の主導の下で、自治体が主体となって推進されることになった。

 当初は(今でも?)、上からの指導だし、予算もつくので、何をすればいいかはよくわからないが「とにかく何かやらなければ・・・・」というところが少なくなかった。このことが、地に足の付いてない食育活動が実施されていた原因ではないかと、伊藤氏は分析している。
 たとえば、食育基本法にある“感謝の念”“伝統ある優れた食文化”“食料自給率の向上”等々の盛りだくさんな内容に、現場が振り回された傾向は否めない。その影で、「国民一人ひとりが自分の食を選びとっていく力を身につける」という基本理念がそっちのけになったと、伊藤氏は指摘した。

■説教ではない食育を!

 今、食育の現場で大フィーバー(伊藤氏の言葉)しているキーワードは、次のような事柄だという。

・農業体験
・手作り料理教室
・食文化・伝統の継承
・作法(マナー)
・感謝の気持ち
・地産地消
・食品添加物を避けましょう
・食育インストラクター

 伊藤氏は、これらのことが(けっして悪いことではないとしても)当初の目的を達成することにはつながらなかったのではないかと危惧している。それが、冒頭のアンケートの結果(肉の生食のリスクの軽視等)に現れており、一連の痛ましい食中毒を引き起こした1つの要因(提供者側の責任とは別の要因)ではないかと指摘した。

 今こそ、「国民一人ひとりが自分の食を選びとっていく力を身につける」という食育の原点に立ち返るべきであり、科学的でかつ実践的な“説教ではない真の食教育”を再スタートさせることが、主催者の責務だと明言した。

(平成23年7月24日 佐藤達夫)